それらすべてが愛になる
 清流が経営企画課に配属されて三週間が過ぎた。

 清流は部長席の前で洸と対峙していて、普段とは違った緊張感が漂う空間で背筋が伸びる。

 「ふぅん、なるほどな…」

 目の前の部長席に座る洸は、清流の作成した四十ページ近くある資料をパソコンで隅々まで、けれど物凄いスピードでスクロールしながら目を通している。

 「セグメントⅡのリスク確率、根拠データが少なすぎる。それからシェア分析は内容が乏しいし甘い。あと二十五ページの―――」

 洸からの飛んでくる容赦ない指摘に、清流は内容を漏らさないよう必死にメモを走らせた。

 「あの、リスク確率は確かにデータが少ないと思って他にいくつか追加してシミュレーションしたのですが、結果にあまり差が出なくて、」

 「だったらもっとデータ取ってくるか軸を変えてやり直しだ。俺たちの仕事は分析結果を出すことじゃなくて、そこから課題を炙り出してどれだけリスクを減らすか考えること。ここが甘いと前提が崩れる」

 反論もそこそこに正論を被せられ、清流は止めていたメモを取る手を再び動かす。

 「再提出はそうだな、来週の水曜。榊木にサポートと提出前のチェックしてもらえ」

 「…はい、分かりました」

 失礼します、と一礼してドアを閉め自席へと戻ると、今日は清流の右隣りに座る未知夏が椅子をくるっと向けた。

 「その顔は、加賀城くんの洗礼受けちゃった感じ?」

 「もうボッコボコです……」

 ―――自己肯定感爆上げどころか、ズタボロなんですけど。

 今はブラインドが下げられていて中が見えない部屋の主に、そんな恨み節を言いたくなる。

 「まぁまぁ、俺の最初の頃なんか三十分くらいずっとダメ出しだったからさ」

 「あれは私の目から見てもお粗末な出来だった」

 「姐さんひど!」

 舞原と未知夏がそんな会話をしていると、ガチャッとドアが開いて洸がネクタイを結びながら出てくる。

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