それらすべてが愛になる
 「決められた納期を守るのはすごく大事なことよ。でも会議に使える資料を作ることも大事。
 清流ちゃんさ、これじゃデータ少ないなって自分で気づいたのよね?そこに気づけるのって良い嗅覚してるから、その感覚も同じくらい大事にしてほしい」

 いくつか手持ちのデータで試して結果が変わらなかったとき、どうするべきか迷った。けれどもう納期まで時間がなくて、結局元の少ないデータでの分析結果のまま載せてしまった。

 「それって、せっかくの気づきは無かったことになっちゃうわけだからもったいないじゃない?
 仕事をしていると、二択を迫られるときが多いの。しかもそのうちの一つは大体面倒なパターンだからできれば避けたいのよね。でもその『絶対面倒だろうな』って思う方を選択すると、一見遠回りのようで結果として近道だったりするの。不思議とね」

 未知夏の言うことは、清流にも理解できる。

 今回も、もう一度データを探すか作り直した方が、結果として洸からの指摘は少なく手戻りも少なく済んだはずだからだ。

 でも、限られた時間でそれが自分にできただろうか。

 「そういうときは、周りを頼るの!」

 「え?」

 未知夏はあっけらかんと笑う。

 「データのことならまずは唯崎くん。社内一、二を争う凄腕アナリストだし、どっから手に入れたのか分からないヤバい資料もたくさん持ってるから使わなきゃ損」

 「榊木さん、それは言い過ぎです」

 唯崎の冷静なツッコミをスルーして、未知夏は続ける。

 「それから舞原くん。とにかく体力とメンタルだけは強いから少々無茶振りしても平気。使えるものはどんどん使ってこ!」

 「なーんか聞こえてますよー。でもまぁ、姐さんの言うように一人で気負わないでさ、一緒にやればいいってこと」


 一緒にやる。

 それは、洸からも言われた言葉だ。


 「……はい、ありがとうございます」

 今はまだ頼りないけれど、メンバーとして自分もこの人たちの役に立てるようになりたい。清流は、強くそう思う。

 (そのためには、もっともっと頑張らないと)


 「俺らはチームだし運命共同体みたいなもんだからね」

 「舞原さん、それは言い過ぎです」

 「もー!唯崎さんノリ悪いなぁ」

 「ハイハイ、漫才はそこまで!清流ちゃんは他の指摘事項の修正、私は残りをチェックするわね。新しいデータ出しは唯崎くん、舞原くんはここが正規化できるように調整お願い」

 唯崎と舞原は静と動、一見まったく真逆のタイプのように見えるけれど妙に波長が合っている。案外良いコンビなのかもしれない。
 清流がそんなことを考えていると、未知夏がテキパキと指示を出してチームを回していく。

 「了解っす!みんなでスッゲー資料にして部長をギャフンと言わせてやりましょ!」

 「舞原さん、人は日常会話でギャフンとは言いませんよ」

 「もぉー、ほんとノリ悪!」


 その頃、洸が寒くもないのに一人大きくくしゃみをしていたことは、誰にも知られていない。

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