それらすべてが愛になる
 舞原はぶつぶつ言いながらも、卓上ベルで呼んだ店員に手早く注文する。

 「でも今日は唯崎さんも参加なんて珍しいっすね。いっつも俺らとの飲み会より猫優先だったじゃないですか」

 お酒が来るまで手持ち無沙汰なのか、水の入ったコップを手でくるくると回しながら舞原が言う。

 「貴方たちと飲むと終電過ぎても終わらないじゃないですか。日付が変わるまで留守番をさせられません」

 「唯崎さん猫飼われてるんですね。今日は大丈夫なんですか?」

 「はい、預け先が見つかりましたので」

 清流が心配になって尋ねると、正面に座る唯崎がほんの少し頬を緩める。

 彼が微笑むところを、清流は今初めて見た気がした。その飼い猫のことを思い出しているのか、涼しげな眼鏡の奥の眼差しも幾分か優しい。
 一見クールな人が、家では猫を可愛がっているのかと思うと微笑ましかった。

 「そういえばさっき要注意人物、とか聞こえたんですけど、それって誰のことですか?」

 「……加えて地獄耳です。気をつけてください」

 「はい、気をつけます」


 このメンバーの前では墓穴を掘らないように気をつけようと心に留めて、清流はテーブルに届いたグレープフルーツサワーを受け取った。


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