それらすべてが愛になる

8. 言葉と態度の裏のウラ

 翌日の金曜日。人事総務のミーティングにオブザーバーとして呼ばれた洸は、あくびを噛み殺しながら腕時計を見た。

 もうすぐ昼だなと思ってから何度か確認しているが、なかなか時間が進まない。

 ノートパソコンで資料を見るふりをしながらメールをチェックしていると、プロジェクターを表示するために消されていた明かりが付いた。途端に会議室内が一気に明るくなって、暗がりに慣れた目を押さえる。

 午前最後の会議を終えて、洸は一番に会議室を出た。

 エレベーターまで追ってきた総務部長の話を適当にかわしながら、頭では午後からのタスクを整理する。

 経営企画課へ戻り溜まったメールを返してから、軽く昼食を買う。会議前に唯崎に頼んでおいた修正はもう上がってきているだろうから、食べながら目を通して、それから――。


 「部長お疲れ様でーす」

 経営企画課のドアの前で、手にコンビニ袋を持った舞原と遭遇した。

 洸もお疲れ、と返してから中へ入る。ちょうど昼の時間だからか、課内には誰もいなかった。舞原は席に戻ると、デスクにあったファイルを洸へと渡す。

 「これ、唯崎さんから預かり物っす」

 ファイルを開くと、予想した通り頼んでいた修正は終わっていた。手早く気になる箇所を確認する。ファイルの中にはもう一部資料が挟まっていた。

 「あーそっちはですね、唯崎さんが法務からゲットしたスタートアップ企業のリストだそうです」

 「は?スタートアップ?一昨年買ったばっかりだろ」

 しかも事業推進がプランニングしていたより回収ペースが鈍く、当初の予定通りにペイできる目途が立ったとはいえない状況だ。

 声のトーンで苛立ちを感じ取った舞原は「俺に言わないでくださいよー」と苦笑した。

 舞原がサラダのパッケージをバリッと音を立てて剥がすのを見ながら、またタスクが一つ追加されたことにげんなりする。

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