まじめ医療部員の由良さんは、北条ドクターの甘々包囲網の中
14 重なる気持ちと青い空
上川とのお見合いの後、上川は由良への好意を隠さなくなった。
由良が荷物を運んでいれば代わりに運んでくれて、調子が悪いときは社員寮まで送ろうと言ってくれる。
由良は好意を感じるにつけ、これまでも上川にずいぶん助けられてきたのを改めて実感していた。上川はそれが当然のように手を差し伸べてくれて、由良はそれを好意と意識しないうちに受け取ってしまっていた。
でも由良は、自分の好意のありかはちゃんと自覚していた。心の中の大事なところに守っている気持ち。それが誰を映しているかは、もう何度もみつめて知っていた。
「兄にちゃんと断りに行ってきます」
お見合いから一週間が経つ頃、由良は駅の近くのカフェで北条と会っていた。
由良が熱を出して中止になってしまった初めてのランチの後、ようやく叶った二度目のランチは、とても浮き立つ気分じゃなかった。由良は北条にも上川にも申し訳ない思いでいっぱいで、最初は北条の顔もちゃんと見れなかった。
由良は苦い顔で、謝罪をこめて言葉を続ける。
「ごめんなさい。私が中途半端にお見合いに行ったのは良くなかったです。最初から断るべきでした」
「由良さんが中途半端な気持ちで行ったとは思っていませんよ。確かに上川君に期待はさせたでしょうが、お兄さんの顔を立てるには仕方なかった」
北条は苦笑して由良をなだめると、ふいに由良をのぞきこんで言った。
「それで、提案なのですが。……お兄さんのところに、僕も一緒に行きたいです」
「北条先生?」
由良が慌てて顔を上げると、北条は優しいけれど強い目で由良を見ていた。
「改めて交際を申し込みます。僕と付き合って、恋人として僕を紹介してくれませんか?」
由良は息を呑んで、まじまじと北条を見返す。
由良は彼の言葉の意味を考えてから、うろたえて言葉を返した。
「せ、先生にご迷惑をかけます。今兄のところに行って紹介したら、それは……」
「結婚を前提にしたお付き合いだと思われるでしょうね」
北条はうなずいて、由良をまっすぐに見て言った。
「それが僕の覚悟です。由良さんとなら、結婚したいと思っています」
由良はそのまなざしの強さに驚いて、一瞬言葉も失った。
でも、じわじわと顔に熱が上ってくる。うれしい。それはいろんな悩みを脇に置いても、確かな由良の思いだった。
北条はそんな由良の表情を微笑んで見返す。
「なかなか叶わなかったランチだって今日実現した。それも大きな前進だって、僕はうれしかったんです。本当は一緒に出掛けたり、記念日を祝ったりして、重ねていきたい手順はいろいろありますけど……。多少順番が変わってもいいでしょう? 二人の気持ちが重なるなら、これからいくらでも一緒に実現すればいい」
北条は手を伸ばして由良の手を取った。由良はどきどきしながらそれを受け止めて、舞い上がっている自分に赤くなる。
由良はそんな気持ちが幸せすぎて、思わず後ずさるようなことを口にした。
「先生は、私でいいんですか? 私はドクターでも看護師でもなくて、体も弱いですし、先生をいつも支えられるかわからないのに」
「由良さんだからいいんです」
北条はくすっと笑って、優しく言葉を返す。
「由良さんはまじめでまっすぐで、冷たく固まっていた僕の心を溶かしてくれた人。由良さんといると、僕は幸せです。……お付き合いしてくれますか?」
北条は首を傾けて、由良の答えを待つ。
その答えには、確かに勇気が必要だった。応えたら、北条の人生も巻き込む。彼のような立場の人なら、もっと素敵な相手がたくさんいる。一医療部員の自分がどうしてという思いはまだ消せない。
「……はい。私も、先生といると幸せです」
けれど北条と一緒にいられる時間はたまらなく愛おしい。これからも時間を重ねていきたい。
由良が北条の手を握り返すと、彼はその上からもう一つの手を重ねた。
北条はその手をみつめながら、ふと言葉を告げた。
「じゃあ……恋人同士になった証に、一つお願いしたいことがあります」
「何ですか?」
「……これからは僕のこと、名前で呼んでくれますか?」
「あ……」
由良はそう言われて、はにかみながらその名前を口にする。
「は、はい……勇人さん」
北条の手がぴくりと動く。由良は気が付けば伏せていた目を上げて、彼を見る。
彼……勇人は反射のように手で頬を擦った。その顔は少し赤くなっていて、彼が恥ずかしいときの癖のようだった。
勇人は照れたように笑って、由良も口をむずむずさせた。
二度目のランチはお互い食べたものもわからないほど緊張していたけれど、外は澄んだ青空で、きっと夜には綺麗に星が見える予感がしていた。
由良が荷物を運んでいれば代わりに運んでくれて、調子が悪いときは社員寮まで送ろうと言ってくれる。
由良は好意を感じるにつけ、これまでも上川にずいぶん助けられてきたのを改めて実感していた。上川はそれが当然のように手を差し伸べてくれて、由良はそれを好意と意識しないうちに受け取ってしまっていた。
でも由良は、自分の好意のありかはちゃんと自覚していた。心の中の大事なところに守っている気持ち。それが誰を映しているかは、もう何度もみつめて知っていた。
「兄にちゃんと断りに行ってきます」
お見合いから一週間が経つ頃、由良は駅の近くのカフェで北条と会っていた。
由良が熱を出して中止になってしまった初めてのランチの後、ようやく叶った二度目のランチは、とても浮き立つ気分じゃなかった。由良は北条にも上川にも申し訳ない思いでいっぱいで、最初は北条の顔もちゃんと見れなかった。
由良は苦い顔で、謝罪をこめて言葉を続ける。
「ごめんなさい。私が中途半端にお見合いに行ったのは良くなかったです。最初から断るべきでした」
「由良さんが中途半端な気持ちで行ったとは思っていませんよ。確かに上川君に期待はさせたでしょうが、お兄さんの顔を立てるには仕方なかった」
北条は苦笑して由良をなだめると、ふいに由良をのぞきこんで言った。
「それで、提案なのですが。……お兄さんのところに、僕も一緒に行きたいです」
「北条先生?」
由良が慌てて顔を上げると、北条は優しいけれど強い目で由良を見ていた。
「改めて交際を申し込みます。僕と付き合って、恋人として僕を紹介してくれませんか?」
由良は息を呑んで、まじまじと北条を見返す。
由良は彼の言葉の意味を考えてから、うろたえて言葉を返した。
「せ、先生にご迷惑をかけます。今兄のところに行って紹介したら、それは……」
「結婚を前提にしたお付き合いだと思われるでしょうね」
北条はうなずいて、由良をまっすぐに見て言った。
「それが僕の覚悟です。由良さんとなら、結婚したいと思っています」
由良はそのまなざしの強さに驚いて、一瞬言葉も失った。
でも、じわじわと顔に熱が上ってくる。うれしい。それはいろんな悩みを脇に置いても、確かな由良の思いだった。
北条はそんな由良の表情を微笑んで見返す。
「なかなか叶わなかったランチだって今日実現した。それも大きな前進だって、僕はうれしかったんです。本当は一緒に出掛けたり、記念日を祝ったりして、重ねていきたい手順はいろいろありますけど……。多少順番が変わってもいいでしょう? 二人の気持ちが重なるなら、これからいくらでも一緒に実現すればいい」
北条は手を伸ばして由良の手を取った。由良はどきどきしながらそれを受け止めて、舞い上がっている自分に赤くなる。
由良はそんな気持ちが幸せすぎて、思わず後ずさるようなことを口にした。
「先生は、私でいいんですか? 私はドクターでも看護師でもなくて、体も弱いですし、先生をいつも支えられるかわからないのに」
「由良さんだからいいんです」
北条はくすっと笑って、優しく言葉を返す。
「由良さんはまじめでまっすぐで、冷たく固まっていた僕の心を溶かしてくれた人。由良さんといると、僕は幸せです。……お付き合いしてくれますか?」
北条は首を傾けて、由良の答えを待つ。
その答えには、確かに勇気が必要だった。応えたら、北条の人生も巻き込む。彼のような立場の人なら、もっと素敵な相手がたくさんいる。一医療部員の自分がどうしてという思いはまだ消せない。
「……はい。私も、先生といると幸せです」
けれど北条と一緒にいられる時間はたまらなく愛おしい。これからも時間を重ねていきたい。
由良が北条の手を握り返すと、彼はその上からもう一つの手を重ねた。
北条はその手をみつめながら、ふと言葉を告げた。
「じゃあ……恋人同士になった証に、一つお願いしたいことがあります」
「何ですか?」
「……これからは僕のこと、名前で呼んでくれますか?」
「あ……」
由良はそう言われて、はにかみながらその名前を口にする。
「は、はい……勇人さん」
北条の手がぴくりと動く。由良は気が付けば伏せていた目を上げて、彼を見る。
彼……勇人は反射のように手で頬を擦った。その顔は少し赤くなっていて、彼が恥ずかしいときの癖のようだった。
勇人は照れたように笑って、由良も口をむずむずさせた。
二度目のランチはお互い食べたものもわからないほど緊張していたけれど、外は澄んだ青空で、きっと夜には綺麗に星が見える予感がしていた。