優しくしないで、好きって言って

 こういう時の竜胆は、普段の近寄り難い雰囲気を上手く隠してしまうんだから、本当感心してしまう。

 慣れた今となっては……まあ竜胆自身が前より丸くなったっていうのも多少手伝って、全く怖くないけれど。

 私も最初、鋭い目つきと不良っぽい雰囲気に警戒心剥き出しだったのが懐かしい。


「こちらこそ、はじめまして。七瀬の──」

「存じ上げております。婚約者の瑛大さん、でしょう。お目にかかれて光栄です。実は以前から……」


 とその時、ダッと嫌な予感が全身を駆け巡った。

 それから時間にしておそらく1秒にも満たないスピードで竜胆に駆け寄った私は、グイッとその腕を強引に引っ張って。


「まさかとは思うけど、あの夢の話はぜぇーーったいに本人にはしないでね!」


 力を込めた小声で耳元へと釘を刺す。

 竜胆は185cmを超える長身だ。20数cm違う私の口元が耳に届くよう腕を引いているせいで、当然不格好な体勢になっている。

< 70 / 272 >

この作品をシェア

pagetop