九條くんと、15分。
──あれは、今から1ヶ月ほど前。
高校生活にもやっと慣れ始めた五月の終わり。
いつものように、朝学校へ向かっていた私は、その日も九條くんの少し後ろを歩いていた。
今よりもっと、前を歩く九條くんとの間隔は近かったと思う。
学校で人気のある九條くんのことは入学したての私でも知っていたけれど、あの時はまだ、九條くんに対して特別な感情はなくて。
気づけばいつも前を歩いてるな、もしかしたら近所なのかなって。
ただ、それだけだった。
そう、あの瞬間までは──。
「……持ちます」
あの日、そう言って、目の前を歩く九條くんは突然足を止めた。
「……?」
なぜか、ドキッとして、私も反射的に立ち止まる。
九條くんの前には、腰の曲がった小さなおばあさんが、よく見ると両手に大きな風呂敷包みを抱えていた。
「重そうなので」
「でも……学校、遅れちゃうんじゃない?」
「大丈夫です」
ぶっきらぼうな言い方。
淡々とした声で、相変わらず愛想の欠片もない。
なのに。
次の瞬間には、おばあさんの荷物を片手でひょいと持って、
「どこまでですか」
「なら、向こうの角までお願いできるかしら?本当にありがとう、助かるわ」
「いえ、別に」
それだけ言うと、それまでよりもゆっくり、小さな歩幅で、九條くんはおばあさんの隣を歩き始めた。