あなたは一体誰?
私は目の前の孝明をじっと見つめるが、どこからどうみても孝明に間違いない。自分の夫を見間違える妻などいないだろう。

「今夜、美里にプロポーズしたレストランを予約してるんだ。久しぶりの2人での食事だね」

「そ、そうね……」

「前に俺がプレゼントした赤い石のついたピアスとネックレスつけてくれる?」

「えっと……ええ……わかったわ」

「ありがとう」

(ほんとに孝明さん……よね?)

でも新婚時代に孝明が私にプレゼントしてくれたピアスとネックレスには確かに赤い石がついていた。

「じゃあ、俺シャワー浴びて少し仮眠取るね」

「あ、あの……」

「ん? どうかした?」

「孝明さん……あと気を悪くしたらごめんなさい……あの、そのリコさんって方は……」

「ああ、俺から言わなきゃいけなかったのにごめん。彼女からとは綺麗さっぱり別れたよ。今まですまなかった」

孝明は私に頭を下げると、困ったように眉を下げている。

「……すぐには許せないと思う……でも美里とやり直したいんだ」

孝明の言葉に私の目の奥が熱くなる。

「私も至らないとこがあったから……もういいの。私ももっと頑張る……」

「いや美里はもう十分頑張ってるくれてる。これから頑張るのは俺のほうだ。まずは記念日を楽しく過ごそう」

「うん。記念日、覚えててくれてレストランまで予約してくれて……ありがとう」

「いや、当然だよ。じゃあ夕方には俺も着替えるから起こしてくれる?」

「……わかったわ」

孝明は私に目を細めると浴室へと向かった。

「……別人みたい……」

(この一ヶ月でほんとに考え直してくれたってこと……よね?)

「……私もこれからもっと孝明さんを支えて……また2人で穏やかで……ささやかな日々を過ごしていきたい」

私は綺麗にラッピングされた薔薇の花束のリボンを解き花瓶に生けると、孝明との久しぶりの食事に胸を弾ませた。
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