あなたは一体誰?
孝明が予約してくれていた、イタリアンレストランは孝明の言っていた通り、私が10年前にプロポーズされた夜景の見えるレストランだった。

「美里、乾杯」

「乾杯」

孝明のグラスに私は自分のグラスを合わせると、シャンパンを口に含んだ。口の中に広がるシャンパンの甘さが心の中のわだかまりを溶かしていく。

「孝明さん、わざわざこの席を予約してくれたの?」

「そうだよ、せっかくの記念日だしね」

いま私たちが座っている席はレストランの一番奥の窓際の席で、横の壁には有名な画家のレプリカの絵が飾ってある。

「美里、覚えてる? この絵」

「ええ……覚えてるわ」

「俺、この絵が好きでね。美里にプロポーズを了承してもらってから初めて行ったデートが俺のわがままで画廊だったよね」

「そうだったわね」

「今思えば、いつも美里は俺に合わせてくれて支えてくれて……我慢ばかりさせていたなって」

「そんなことない。私も……ほんとに沢山至らないところがあったの。これからは2人でまた夫婦をやり直したい」

「うん、俺も同じ気持ちだよ」

孝明が形の良い唇を持ち上げ私も微笑み返す。

そして2人で思い出話に花を咲かせながら、コース料理を楽しんだ。


「……結構お腹いっぱいだな、いまからデザートだけど美里大丈夫?」

「うん、デザートは別腹だから。今日はなにかしらね」

「ここは月替わりでデザートが変わるから楽しみだね」

そう話していれば、店員がデザートと飲み物を運んでくる。

「お待たせ致しました。こちら、米粉を使ったシフォンケーキの生クリーム添えです。お好みでハチミツをかけてお召し上がりください。そしてこちらは赤ワインを使用したブルーベリーのシャーベットでございます」

店員は私たちの前にホットコーヒーとお洒落なガラス製のデザートプレートを置き丁寧にお辞儀をして席を離れた。

「ねぇ、孝明さん写真とってもいい?」

「ああ、勿論」

私はこんな風に2人で過ごせることが嬉しくて記念にスマホで写真を撮っていく。

「お、うまい」

「孝明さん、見た目によらず甘党だものね」

「そう。でも美里との初めてのデートでは気恥ずかしくてわざとブラック飲んだんだ」

「ふふっ、そうだった」

孝明は私に目を細めながらデザートを先に楽しんでいる。

(幸せだな……)

まさかこんな日が訪れるなんて思ってもみなかったから。
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