エリート役員は空飛ぶ天使を溺愛したくてたまらない
 チーフパーサーに言われてみんな息を呑んだ。
 莉桜も新型機種についはしゃいでしまったが、主な目的は訓練なのである。
 今日は十六人ほどが訓練に参加していて、クルー役と乗客役に分かれて訓練を開始することとなった。

「まず、通常通り離陸し巡航高度に達する前にエンジントラブルが発生、着水し退避するというところまでやります」
 訓練としてはハードな設定だった。
 莉桜は最初クルー役だったのでジャンプシートという客室乗務員が座るシートに着席する。
 機長の機内アナウンスが入って離陸となるが、その機体の傾きや身体へのGのかかり方など、本当に飛行機に乗っているかのようだった。窓の外の飛ぶように動く景色までしっかり再現されている。

 しかし、感心をしている場合ではない。
 まさに巡航高度に達する前にガタガタっと機体が一瞬大きく揺れて明らかな異常事態があったのだと分かる。その揺れまでもがリアルだ。

『当機はエンジンにトラブルが発生。着陸が困難なため着水いたします。着水まで九分。乗客の皆様は客室乗務員の指示に従ってください。客室乗務員は七分以内に安全姿勢の確認をしてください』
 アナウンスと共に、莉桜は席を立つ。
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