エリート役員は空飛ぶ天使を溺愛したくてたまらない
(あ、この時間が終わっちゃうのかな?)
 莉緒も楽しい時間を過ごしたのだ。このまま別れてしまうにはなんだか惜しいような気持ちになる。

「ん? どうした?」
「いえ……。寂しいものなんですね。楽しかったから、なんかお別れするのが寂しくなったんです」
「参った。君は無意識なんだろうがその素直さや自然な甘えは俺にはたまらない。帰したくないよ」
(私も帰りたくないって言ったら、どうなるんだろう……)
 そうは思ったものの口にする勇気はなかった。
 五十里がさらりと莉緒の耳元の髪に触れる。フェイスラインがあらわになり表情が見えていたかもしれなかった。

「同じ考え? もう少し一緒にいるか?」
 低く甘い声で囁かれ繊細な指先が耳元に触れて、莉緒はどきんとする。
 もう少し一緒にと言われて莉緒は頬が赤くなっているのを自覚しながら、こくりと頷いた。
 五十里に包み込まれるようなこの優しい時間をもう少し堪能したかった。

 * * *

 時間は少し戻る。
 五十里は空港ゲートに向かう長い通路を歩いていた。
 スラリとした長身、オーダーのスマートなスーツ姿と端正な顔立ち。空港内を慣れた様子でスーツケースを引く五十里はとても目立っていた。
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