エリート役員は空飛ぶ天使を溺愛したくてたまらない
 女性のみならない視線を向けられていたが、五十里は他人からの視線に慣れている。それを知らぬこととするのにも慣れていた。
 腕時計で時間を確認する。搭乗には充分な余裕があった。ビジネスシートを予約しているため、機内には優先的に入ることができる。

 自分が搭乗する飛行機の到着を空港内の大きな窓から目視で確認し、ゲートへと向かった。
 搭乗時間はちょうど夕刻で、空港内の窓からは沈みかけの夕陽が機体に当たって美しい。
「綺麗だな……」
 つい零れてしまった感嘆だ。
 惜しむらくはそんな感嘆にも答えを返してくれるパートナーなどがいないことだろう。

 もちろん今回の渡米は仕事なのだから、パートナーと一緒に行くわけにはいかないが、それでも綺麗なものを見た時に共有できる人がいないというのも寂しいものだった。
 理由なんて分かっている。恋人がいないからだ。
 美しい光景を目にしながら、五十里は軽くため息をついた。
 恋人がいないことにも理由があった。

 五十里は重いのだ。もちろん体重の話ではない。
 溺愛体質なのは自覚があった。一旦、愛情を意識すると溺れるほどに愛さずにはいられない。
 溺愛が良いかと言うと良いとばかりは言いきれないのも間違いはない。
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