本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます ~side story ~

川口直人 67

――19時

 待ち合わせ場所に行くと、すでにあの男――岡本亮平は改札の前に立っていた。その目は鋭く、怒りに満ちていることがすぐに分かった。

「お待たせ」

背後から声をかけると岡本は振り向いた。

「来たか……」

まるで俺を射殺さんばかりの鋭い視線で睨みつけてくる。

「……待たせたか……?」

「いや、それほどでも無い。ただ少し仕事が早く終わっただけだ。それでどうするんだ?」

「あまり人目につきたくないんだ」

ここは人目が多すぎる。最近様々な場所で俺は視線を感じるようになっていた。今だって何処かで見張られているかもしれない。いくら、こうやって外で会っている人物が男であろうと、全て常盤恵利に報告されてしまうだろう。

「じゃあ何処へ行く?」

「この近くに雑居ビルがある。そこの1Fがカフェになっているんだ。そこへ行かないか?」

「よし、それじゃ行こう」

「ああ、いいぜ」

そして俺達は移動した――



****


 喫茶店に入っても気分は落ち着かなかった。

壁際の一番奥の壁際のテーブル席に座ると、店内に置かれた観葉植物を動かしてテーブル席の近くに置くと岡本が尋ねてきた。

「おい、いいのかよ。勝手に動かしたりして……」

「店を出るときには元に戻すから構うこと無いさ」

いや、むしろこれくらいでは心もとなかったが、それでも何もしないよりはマシだった。その後、店員が現れて俺たちは2人共コーヒーを注文すると、早速岡本は説明を求めてきた。

そこで最初にまず両手をテーブルにつくと岡本に頭を下げた。

「……本当に……すまなかった」

「おい、顔上げろよ。謝るのは俺じゃない。鈴音にだろう!?」

思った通り、岡本は苛立ちをぶつけてきた。

「駄目だ……俺はもう鈴音に会うことは出来ないんだ。電話も……メールだって……」

目の前の岡本が羨ましくてたまらなかった。俺は愛する鈴音と永遠に別れなくてはいけないのに、この男はいつでも自由に鈴音に会う事が出来るからだ。

苦しい胸の内を告白した。今自分が置かれている立場と、何故こんな事になってしまったかを……。

 俺の長い話が終わると、岡本は以外な事を提案してきた。川口家電に融資をして貰えないか上と掛け合ってみると言ってきたのだ。さらに耳を疑う台詞を言ってきた。俺に取って憎むべき対象でしか無い常盤恵利を手懐けろと言ってきたのだ。勿論反論したが、岡本の言葉も尤もだった。
だが、確かに反抗的な態度を取るより懐柔した方がいいのかもしれない。

 岡本は最後に言った。

『とにかく……諦めるな。希望を持てよ』

そして俺たちはこの日を堺に、定期的に連絡を取り合うことを決めた――
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