本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます ~side story ~
川口直人 80
翌日――
この日は珍しい事に常盤恵理からの連絡が一度も入ってこなかった。本当は今日はあの女から10時に連絡が来ることになっていたのに……時刻はもう既に午後2時になろうとしていた。
「……妙だな……」
自宅で父と2人、リビングで会社の書類を見直している時に思わずポツリと呟いてしまった。
「え? 直人。何所か書類でおかしなところがあったか?」
父が慌てる。
「あ、ごめん。紛らわしい事言って……。大丈夫、この資料におかしなところは無いよ」
「そうか……なら良かった……」
父は安堵の溜息をついた後……暗い表情で謝ってきた。
「直人……本当にお前には悪いことをしたと思っている……。まさか弘があんな事をしていたとは……」
「いや、その事はもういいんだ。どっちにしろ、もう俺は常盤恵理と結婚せざるを得ない立場になってしまったから。叔父さんが原因じゃないから、気にしないでいいよ。ほら、和也が今日はいない分……頑張らないと」
「あ、ああ。そうだな。」
そして俺と父は再び書類に目を通し始めた。
そうだ……鈴音をあの女から守る為に俺は常盤恵理と結婚するしかないんだ。俺にはもうそれしか鈴音を守ることが出来ないのだから……。
****
「ただいま!」
19時になり、和也が妙に興奮した様子で家に帰って来た。
「お帰りなさい、和也」
台所で食事の準備をしていた母が顔をのぞかせた。
「お帰り。和也」
ようやく全ての書類に目を通し終えた俺は1人、リビングでテレビを観ていた。
「良かった。マンションに帰っていなかったんだ!」
妙に嬉しそうに和也が話しかけてきた。
「ああ、大晦日と三が日はここにいるって前にも話したじゃないか」
「そうだったね。ところで父さんは?」
「父さんなら風呂に入ってるけど?」
「そっか。丁度良かった」
「え? 何が丁度良かったんだ?」
すると次に和也の口から信じられない台詞が飛び出した。
「兄ちゃん……落ち着いて聞いてくれ。実は鈴音さんに会ったんだよ」
「な、何だって!? それは本当の話か!?」
気付けば俺は和也の襟を掴んでいた。
「うん。本当だよ。俺は接客業のバイト歴が長いんだ。人の顔を覚えるのは得意だって事位知ってるだろう?」
「確かにそうだったな。それで鈴音はどんな様子だった!?」
「……泣いてたよ。しかも……写真で観た時よりもずっと痩せていた……」
和也は目を伏せた。
「え?」
その言葉は俺に衝撃を与えた。
「鈴音が……泣いていた……?」
「うん。そうだよ。鈴音さんは1人でファミレスにやって来て、ホットコーヒーだけ頼んで30分位しかいなかった。それで会計も俺が担当したんだけど……何だか顔色も悪くて、とても見ていられなくて、つい『元気出して下さい』って声かけてしまったんだ」
「……そうだったのか……」
それにしてもまさかとは思ったが、和也が鈴音と偶然会う事になるとは思ってもいなかった。
「それだけじゃ無かったんだ……」
和也が気まずそうに言う。
「え? まだ何かあるのか?」
「う、うん……その後の事なんだけど……午後2時頃だったかなぁ? 実はバイト先のお使いで自転車で公園の近くを通りかかった時、公園のベンチでカップに入った飲物を持っていた鈴音さんに偶然会ったんだよ。すごく思いつめた顔していたから……つい、また声掛けてしまったんだ」
「そうなのか?」
「大した会話はしていないんだけど……別れ際に『ありがとう』ってお礼を言われたよ。……多分……鈴音さんは……まだ兄ちゃんの事忘れられないんじゃないかな……」
複雑な気持ちで和也の話を聞いていた。
鈴音には幸せになって貰いたいと思う反面、別の男が将来鈴音の結婚相手として隣に立つかもしれない。
その事を想像するだけで、激しい嫉妬に駆られる自分がいる。
鈴音がまだ俺の事を思っていてくれている……?
そう考えるだけで……不謹慎なのは分っていたが、心が躍る自分がいた――
この日は珍しい事に常盤恵理からの連絡が一度も入ってこなかった。本当は今日はあの女から10時に連絡が来ることになっていたのに……時刻はもう既に午後2時になろうとしていた。
「……妙だな……」
自宅で父と2人、リビングで会社の書類を見直している時に思わずポツリと呟いてしまった。
「え? 直人。何所か書類でおかしなところがあったか?」
父が慌てる。
「あ、ごめん。紛らわしい事言って……。大丈夫、この資料におかしなところは無いよ」
「そうか……なら良かった……」
父は安堵の溜息をついた後……暗い表情で謝ってきた。
「直人……本当にお前には悪いことをしたと思っている……。まさか弘があんな事をしていたとは……」
「いや、その事はもういいんだ。どっちにしろ、もう俺は常盤恵理と結婚せざるを得ない立場になってしまったから。叔父さんが原因じゃないから、気にしないでいいよ。ほら、和也が今日はいない分……頑張らないと」
「あ、ああ。そうだな。」
そして俺と父は再び書類に目を通し始めた。
そうだ……鈴音をあの女から守る為に俺は常盤恵理と結婚するしかないんだ。俺にはもうそれしか鈴音を守ることが出来ないのだから……。
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「ただいま!」
19時になり、和也が妙に興奮した様子で家に帰って来た。
「お帰りなさい、和也」
台所で食事の準備をしていた母が顔をのぞかせた。
「お帰り。和也」
ようやく全ての書類に目を通し終えた俺は1人、リビングでテレビを観ていた。
「良かった。マンションに帰っていなかったんだ!」
妙に嬉しそうに和也が話しかけてきた。
「ああ、大晦日と三が日はここにいるって前にも話したじゃないか」
「そうだったね。ところで父さんは?」
「父さんなら風呂に入ってるけど?」
「そっか。丁度良かった」
「え? 何が丁度良かったんだ?」
すると次に和也の口から信じられない台詞が飛び出した。
「兄ちゃん……落ち着いて聞いてくれ。実は鈴音さんに会ったんだよ」
「な、何だって!? それは本当の話か!?」
気付けば俺は和也の襟を掴んでいた。
「うん。本当だよ。俺は接客業のバイト歴が長いんだ。人の顔を覚えるのは得意だって事位知ってるだろう?」
「確かにそうだったな。それで鈴音はどんな様子だった!?」
「……泣いてたよ。しかも……写真で観た時よりもずっと痩せていた……」
和也は目を伏せた。
「え?」
その言葉は俺に衝撃を与えた。
「鈴音が……泣いていた……?」
「うん。そうだよ。鈴音さんは1人でファミレスにやって来て、ホットコーヒーだけ頼んで30分位しかいなかった。それで会計も俺が担当したんだけど……何だか顔色も悪くて、とても見ていられなくて、つい『元気出して下さい』って声かけてしまったんだ」
「……そうだったのか……」
それにしてもまさかとは思ったが、和也が鈴音と偶然会う事になるとは思ってもいなかった。
「それだけじゃ無かったんだ……」
和也が気まずそうに言う。
「え? まだ何かあるのか?」
「う、うん……その後の事なんだけど……午後2時頃だったかなぁ? 実はバイト先のお使いで自転車で公園の近くを通りかかった時、公園のベンチでカップに入った飲物を持っていた鈴音さんに偶然会ったんだよ。すごく思いつめた顔していたから……つい、また声掛けてしまったんだ」
「そうなのか?」
「大した会話はしていないんだけど……別れ際に『ありがとう』ってお礼を言われたよ。……多分……鈴音さんは……まだ兄ちゃんの事忘れられないんじゃないかな……」
複雑な気持ちで和也の話を聞いていた。
鈴音には幸せになって貰いたいと思う反面、別の男が将来鈴音の結婚相手として隣に立つかもしれない。
その事を想像するだけで、激しい嫉妬に駆られる自分がいる。
鈴音がまだ俺の事を思っていてくれている……?
そう考えるだけで……不謹慎なのは分っていたが、心が躍る自分がいた――