本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます ~side story ~

川口直人 84

 23時――

 資料の見直しをしていると不意にスマホが着信を知らせた。電話の相手は和也からだった。

「もしもし?」

『あ、兄ちゃん? 今時間いいかな?』

「ああ、いいぞ?」

『聞いてくれよ、実はさぁ……何だと思う?』

「何だよ、妙に勿体つけた言い方して……早く言えよ」

『いいか? 聞いて驚けよ? 何と鈴音さんに会ったんだよ!』

「何だって? 鈴音に……? それ、本当なのか!?」

『本当だよ! もう俺本当に驚いたよ』

「何処で? 何処で鈴音に会ったんだ!?」

気付けば大きな声で尋ねていた。

『俺のアルバイト先男女4人で飲みに来ていたんだよ。2時間飲み放題で来てたよ。残念だったな、兄ちゃん。来ていれば鈴音さんに会えたのにさ』

「す、鈴音に……会えたかもしれない……?」

もし本当に会えたとしたら、きっと人目もはばからず鈴音を抱きしめていただろう。
そしてそのまま、この部屋に連れ帰っていたに違いない。

『どうしたんだよ、兄ちゃん』

和也の声で我に返る。

「い、いや。何でもない。そうだったのか……それで鈴音の様子はどうだった?」

『うん、楽しそうにしていたよ。でも驚いたよ。まさかまたバイト先で鈴音さんに偶然会えるとは思えなかった。ひょっとして俺と鈴音さんって運命の赤い糸で結ばれているのかなぁ……』

「……おい、和也。お前……」

弟とはいえ、声に殺気が宿る。

『ちょ、ちょっと待ってくれよ。まさか本気でとっているの?』

「違うのか?」

『冗談だって! 本気にとらないでくれよっ!』

和也の声に何処か怯えがあった。

「ならいいけど……」

『それで鈴音さんの事なんだけどさ……』

「まだ何かあるのか?」

『うん。実はさ……鈴音さん達が帰る前にバイトあがったんだよね。それで店を出て歩いていたら、俺の前を鈴音さんが駅に向かって歩いていたんだよ。随分お酒に酔っていたみたいで足元がふらついていて……突然転びそうになったんだよ』

「え!? 鈴音は大丈夫だったのか!?」

『大丈夫だったよ。俺が背後から抱きとめたからさ。いい香りがしたな~』

「いい香りだけ余計だ。……それで?」

鈴音の事を和也が抱きとめた……。嫉妬の気持ちが湧き上がってくる。

『うん。鈴音さん、かなり酔っていたみたいだから一緒に新宿駅まで行くことにしたんだよ』

「どんな会話したんだ?」

鈴音と和也がどんな会話を交わしたのか気になった。

『う〜ん……大した話はしていないよ。この間ファミレスで会った話をしたくらいかな。でもこの間会ったときよりは元気そうだったよ』

「そうか……。元気そうなら良かった……」

『うん。だから……早く迎えに行ってあげたほうがいいよ』

「努力するよ」

『あのさ……それで提案があるんだけど。俺も鈴音さんと顔見知りになった事だし、色々協力したいなと思って……』

「協力?」

『うん、そうだよ。その鈴音さんの幼なじみと3人で協力して、兄ちゃんが一刻も早く彼女の元に戻れるようにさ……』

「ありがとう。和也……」

『それじゃ又ね』

「ああ」


電話を切ると鈴音に誓った。

「鈴音……。待っていてくれ……必ず迎えに行くから」



****


 和也と電話で話してから1周間程経過していた。あれ以来また常盤恵利との連絡は途絶えていたが、今はあの女に関わっている暇は無かった。台湾の企業とのやり取りで忙しかったからだ。

「……よし、これならいけそうだ」


明日、この資料を常盤社長に見せるんだ。これだけの営業利益が見込めるなら流石の社長も川口家電から手を引いてくれるだろう。

「ふ〜…」

時計を見ると午後7時になろうとしていた。
そう言えば最近岡本と連絡を取り合っていなかった。和也が協力してくれるという話もまだ伝えていなかったし。

「よし、久しぶりに岡本にメールをしてみようか……」

早速岡本にメールをすることにした――




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