嘘も愛して
新一年生の入学式から出会い、新学期始まってすぐにまた顔を合わせるなんて想像できなかった上に、教室に押しかけてきたかと思えば、今度は呼び出し……。
あの会話の中で何か弱みでも見つけたのかな……。何を言われるのかと思うと身震いがする。
「おい」
「あっ、はい……」
「……なんだ、今朝は強気だったわりに随分汐らしいな」
汐らしいというかびくびくしてるだけです……。
颯爽と現れた空周は、体育館シューズに履き替え、体育館の床を踏みしめた。初めて会った時も、片手でドアに寄りかかって靴を履き替えていた。
って、体育館に何の用だろ?
「早く来いよ、仁彩」
きょとんとしていると、整った横顔で私の名前を呼ぶ空周と目が合う。とにかく顔がいい、本当に腹が立つほど。そして有無を言わせない言動、態度、すべてで物語るたたづまい。
犬のようにしっぽを振るお供の気持ちも分かる。けど、負けず嫌いな私は絶対に下らない決意を密かに隠しながらその背中を追いかけた。
空周は体育館の準備室から出てくると、片手にバスケットボールを持っていた。
ん?用って、バスケをするから見てろってこと?
というか、何持ってもさまになる……。
「仁彩。付き合えよ」
「えっ……。バスケしようってこと?」
「俺から取ってみろよ」
人差し指の腹でくるくるバスケットボールを回す、余裕たっぷりの王様。いや、体格差ありすぎて泣きそう。ずーんと、落ち込んでいるとお構い無しに、ダンっと、ボールが叩きつけられる音が鳴り響く。
「本気で勝つつもりか?俺にもクソザコ皇帝にも」
そう言いながらゆったりとドリブルをする王様に、私はぴくっと眉をあげた。
「私が女だから?弱いって言いたいの?」
「そうだな。弱ぇってのに、どこからその自信はくる」
腕まくりをした私と対面した空周は、変わらず余裕そうに手を動かし、足を止めた。なめられてる時が一番、やりやすいんだよ。
「ふふ……喧嘩もね、やりようによっては単純な強い弱いで片付けれないって思わない?」
私は彼の周りをちょこまかと動き回り、ボールをかっさらおうとする手をとめず、
「自分の力量は自分がよく分かってる。そこで何も出来ない非力な者として認めるか、抗うか、その違いでいくらでも自信はつくよ」
彼の視線を動かし、隙を作った瞬間を見逃さず、私はボールをかすめ取り、奪われないように背中で空周を押した。体格のいい彼に背を向け、ボールを両手に持った私はに、上から声が降ってくる。
「いい理屈だ。俺は張り合うのが好きだ。己を高める駒を傍に置きたくなる」
その声に誘われるように、私は精一杯頭上を見上げた。
「仁彩……俺の傍で狂い咲いてみろ」
覆い被さるように、彼は私を覗き込むように見下ろしていた。彼の前髪が、私のおでこに触れそうになるくらい、近かった。どこまでも澄んでいる儚くも淡い栗色の瞳に吸い込まれそうになるくらい、目が離せなかった。どれくらい目が合っていたか分からない、不意に、私は我に返り彼から離れる。
のまれちゃいけない、ブレちゃいけない。強気で、いなくちゃ。
「ボール、とったよ」
「……ちっ。もう一回だ。分からせてやる」
え……?精一杯の強気は、返って彼を熱くさせてしまった……。
私たちはこれでもかというくらい、バスケを楽しみ、漸く下校する。
その足取りは疲れているはずなのに軽く、気持ちはスキップしていた。