嘘も愛して
うーん。教室に戻ろうとしたけど、あまりに気まづすぎて私は今、屋上に来ていた。優等生として高校生活を送る予定だったのに、初日からサボることになっちゃうなんて……。
でも今は、あの人に負けっぱなしは悔しい。その気持ちが大きくなっていた。
「どうしよぉ……いきなり殴り込みとかかっこ悪いし…」
はぁ、とため息が出る。ぼんやり、昔の男の記憶が呼び起こされて、ぴたっと思考を止める。
「クソ男」
つい、出てしまった悪口に、反応した声がふってくる。
「威勢だけじゃ何も成せないぞ」
「ひゃっ!……い、いつから……」
そこには本日二回目のイケメンがいた。さっき会ったばかりなのにまた?あからさまに嫌な顔をする私をおいて、彼は相も変わらず不敵な笑みを浮かべている。
「さぁ?」
「うぅ……」
一人で黄昏てる姿を見られるとか、恥ずかしすぎる…。
「で?俺に啖呵切っといて何も策がないのか?」
「それは……」
これ最初から見てたな…。
「教えてやるよ。簡単なことだ。二週間後の序列審判戦に出ろ。存在を証明しろ」
「存在……」
「弱い奴がどれだけ吠えてもノイズでしかないだろ?精々足掻いてみろ」
透き通った栗色の瞳はいつもと変わらないというのに、何故か優しさを帯びている気がした。口調も態度も悪いけれど、本質は良い人なのかもしれない。こんな私にアドバイスしてくれるなんて。
途端に嬉しさが込み上げてきて、居てもたってもいられなくなった私は思わず、頬が緩んでしまった。
「ありがとう!」
屈託のない笑みで、彼に向き直った。
「は?なんで」
彼は怪訝そうにしている。まるで感謝されることになれていないかのように、ほんの少しだけたじろいだように見えるほど。
「私が言いたかっただけ。ねっ、名前何て呼んだらいい?」
「……うるせぇ、呼ばなくていい」
「えぇ……じゃあ君に合わせて私も名前で呼ぶよ?よろしくね、空周」
「……」
彼は、私という人間が読めないのか、不思議そうに見つめている。
「仁彩」
不意に、名前を呼ばれる。そして、大きくてごつくも温かい手が、私の頭をぽんぽん撫でている。
「っ……」
え???あの傲慢で俺様な王様が、頭ぽんぽん??え???
状況整理に頭が追いつかない私は、撫でられた頭を両手で庇い、口をわぐわぐさせてしまう。そんな間抜け顔を流し目で見やる空周は、端的に言う。
「放課後、付き合え」
「え…………え?!」
もう意味が分からない……。
棒立ちしてしまった私は、その場に残され、一人力なくその場に座り込んだ。
放課後、一年の下駄箱で背の高い男とそれに懐いている男の姿が。
「いるみ、てめぇは先帰ってろ」
「ちょ、空周!なん、で……いえ、分かった」
しゅん……と小さく肩を落とした様子を気にもとめず、彼は面白いおもちゃの元へ足を進めた。
一方、呼び出しをくらった黒髪少女は気が気ではない様子で体育館前で渋い顔をしていた。