嘘も愛して



 研真が一番に反応する。振り返ると、いつもながら険しい顔つきですごんでいる王様の姿が。

 目尻の赤いシャドウが映える端正な顔立ち……目つきは悪いのに、今日も反則級にかっこいい……。


 私の傍まで歩み寄って来る様をうっとりと見つめていると、視界の外から、チッと小さく舌打ちが聞こえる。視線をそちらに戻すと、彼は私ではなく、少し背の高い空周を見上げ睨んでいた。


 二人の王様が、対峙した瞬間だった。

「ここでケリつけてやろうか」

「興味ないし、勝手にやってれば?そこの浮気女がピーピーうるさいだけでしょ」


 その中心には私がいて。その理由がバカらしいことに、私は嫌気がさし、何も言えなかった。

「……」


 もう、話したくもない。声も聞きたくない。彼に何を言っても、私の言葉は届かない。都合のいい、甘い言葉しか受け取ってくれないって分かりきっているから。


「何か言えよ、今ならまだ間に合うんじゃない?」

 もう、口を開かないでほしい。私に構わないでほしい。

 なのに、この悪魔はずっと、私につっかかっては嫌味を言うんだ。唖然として言葉が出てこない。


 ここで退いたら何も変わらない。誓ったのに、もう負けたくない、圧倒的に勝ちたいのに。対面すると、何も言えなくなる自分は、やっぱり弱い……。



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