嘘も愛して
俯いてしまう私の頬に、さらりとグレージュ色の髪が垂れる。視界から誰も彼もが消える。
私は、喧嘩になった時もきっと、彼を殴ることなんてできない。気持ち的に負けそうな私は、顔を上げることができな――
「立て、下を向くな、負けを認めるつもりか?」
かったのに、頭に重みを感じ、手を置かれていることに気づく。
空周が、私の頭を大きな手で撫でてくれている。この人は、私に勇気をくれるな……。だけど、
「ごめん、顔も見たくない」
この意思だけはそう簡単に変われない。
私は自分の頭の上に乗っかっている手をどかし、手を掴んだまま彼を見つめる。
揺るがない意志の固さを伝えるために。透き通った栗色の瞳は何も言わず、ただ私を見とめている。
ごめんね、せっかく背中を押してくれたのに。
「お嬢さん……」
心配そうに眉を下げている研真を横目に、私はその場を逃げるように立ち去った。残された面々の視線を背中に感じながら。
ガタンッとドアが閉まる音が各々に響き渡る。
「だとよ、クソ嫌われてんな」
低く、落ち着いた声色で嘲笑する。
「……」
視線が泳ぐ皇帝はそれに何も言い返さない。益々嘲笑うように、蔑むように言い放つ。
「ふん、おもしれぇ。クソダサトップがたかだか女一匹に固執しやがって、ゴミクズが。てめぇみたいなグズに群がるハエもたかだか知れる。いつでも潰してやる」
それだけ言い残し、空周は仁愛の後に続いた。