嘘も愛して



 ハイトーンのベージュ髪。ウルフカットに胸まで伸びた赤い襟足が雅に揺れる。紛れもない美形王子様がそこには立っていた。


 いや、なんで王様が私の家に?!


 っていうか!私服だぁ……。

 五分袖の黒いTシャツ。右下から左の袖まで龍の刺繍が迸る綿麻生地が爽やかに見える。

 少しダボッとしたカーゴパンツにシルバーチェーンが映える。足首上まで覆うハイカットシューズにズボンをインしている。


 頭のてっぺんから足の先までまじまじと眺めた。改めて、目尻の赤いラインの端正な顔を見やる。


「お、おはようございます……」

 戸惑いつつ様子を伺うと、彼は身を乗り出し、玄関の敷居に踏み入った。


「邪魔するぞ」

「えっ」


 ええぇぇえ?

 止まる様子のない現状に、慌てふためいてしまい、口が適当に動いてしまう。


「そ、そっち!リビングで待ってて」

 玄関入ってすぐ左手に広がる部屋を指さし、突然の訪問者の視線を誘導する。


 私は自分のだらしない格好に顔を赤らめ、そそくさと鍵を閉め、二階に上がった。

 部屋に入るなり慌ててクローゼットを開けるも、何を着たらと悩み倒し、全く決まらない。


 だってだって!今日会う予定もなければ、まさか家に来るなんて思いもしなかったのに。



< 74 / 78 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop