〜Midnight Eden Sequel〜【Blue Hour】
しかし相手が巨匠だろうが偉人だろうが、刑事は何者にも萎縮してはならない。気を取り直して次は九条が聴取を再開した。
『宮越さんは二階堂さんと面識はおありですか?』
『ありますよ。二階堂さんは、元は私の絵のファンでしたからね。かなりの数の私の作品が彼のコレクションに嫁入りしていきました』
宮越は作品の売買を嫁入りと表現した。その解釈は理解できるような、できないような、聞き慣れない世界の話ばかりが耳に届く。おまけに綾菜の存在が九条の動揺を誘うため、非常にやり辛い。
とにかく今は事件に関係がない些末《さまつ》な物事はすべて抹消して、彼は綾菜に視線を移した。
『堀川さんが二階堂さんと最後に会われたのはいつですか?』
「最後に会ったのは……10月の……9日ですね。大阪の百貨店でグループ展……、複数の画家が集まって開く個展がありまして、二階堂さんも東京からわざわざいらしてくれました」
“わざわざ”と付け加えた彼女の口調に若干の棘を感じる。東京での個展のみならず、大阪まで追って来る二階堂にうんざりしていたと言いたげだ。
綾菜の話によれば、大阪梅田の百貨店で行われたグループ展の会期は10月6日から11日まで。彼女は8日から大阪市内の友人画家の自宅に宿泊、個展最終日である10月11日の昼の新幹線で帰京している。
二階堂の死亡推定時刻は10月9日から10日の間。個展の観覧のために9日に大阪にいたとされる二階堂は、13日の早朝に東京でバラバラ死体となって見つかった。
綾菜の証言によると、二階堂が大阪の個展会場に現れた時間は9日の昼頃。その時までは二階堂は生きていたことになる。
辿らなければならないのはその後に大阪から東京に戻り、殺害されるまでの二階堂の空白の時間だ。
『宮越さんが二階堂さんと最後に会われたのは?』
『さぁ、いつだったかな……。綾菜の個展にいらしていた時にお見かけしたのは今年の春でしたか。あとはこの店で何度か』
『二階堂さんはこの店にはよくいらっしゃるんですか?』
『綾菜さん目当てに月に何回も来ていましたよ』
四つのコーヒーカップをトレーに載せた日森が話に割り込んできた。彼は左手に持ったカップを各人の前に置いた後も立ち去らず、テーブルの横で毒を吐く。
『あの人、綾菜さんの勤務が終わるまでずっと席を動かないんですよ。綾菜さんにベッタリ張り付いて話しかけて、しつこくデートにも誘っていました。爺さんが若い女の尻を追いかける様子は見ていてみっともなかったですよ』
「日森くん、二階堂さんは亡くなってるのよ。言い方ってものを考えて」
『綾菜さんだって二階堂さんのことを話す時は刺々しいくせに』
綾菜の注意にも日森は悪びれない。言い返された綾菜もそれ以上の反論ができずに口をつぐんだ。
『宮越さんは二階堂さんと面識はおありですか?』
『ありますよ。二階堂さんは、元は私の絵のファンでしたからね。かなりの数の私の作品が彼のコレクションに嫁入りしていきました』
宮越は作品の売買を嫁入りと表現した。その解釈は理解できるような、できないような、聞き慣れない世界の話ばかりが耳に届く。おまけに綾菜の存在が九条の動揺を誘うため、非常にやり辛い。
とにかく今は事件に関係がない些末《さまつ》な物事はすべて抹消して、彼は綾菜に視線を移した。
『堀川さんが二階堂さんと最後に会われたのはいつですか?』
「最後に会ったのは……10月の……9日ですね。大阪の百貨店でグループ展……、複数の画家が集まって開く個展がありまして、二階堂さんも東京からわざわざいらしてくれました」
“わざわざ”と付け加えた彼女の口調に若干の棘を感じる。東京での個展のみならず、大阪まで追って来る二階堂にうんざりしていたと言いたげだ。
綾菜の話によれば、大阪梅田の百貨店で行われたグループ展の会期は10月6日から11日まで。彼女は8日から大阪市内の友人画家の自宅に宿泊、個展最終日である10月11日の昼の新幹線で帰京している。
二階堂の死亡推定時刻は10月9日から10日の間。個展の観覧のために9日に大阪にいたとされる二階堂は、13日の早朝に東京でバラバラ死体となって見つかった。
綾菜の証言によると、二階堂が大阪の個展会場に現れた時間は9日の昼頃。その時までは二階堂は生きていたことになる。
辿らなければならないのはその後に大阪から東京に戻り、殺害されるまでの二階堂の空白の時間だ。
『宮越さんが二階堂さんと最後に会われたのは?』
『さぁ、いつだったかな……。綾菜の個展にいらしていた時にお見かけしたのは今年の春でしたか。あとはこの店で何度か』
『二階堂さんはこの店にはよくいらっしゃるんですか?』
『綾菜さん目当てに月に何回も来ていましたよ』
四つのコーヒーカップをトレーに載せた日森が話に割り込んできた。彼は左手に持ったカップを各人の前に置いた後も立ち去らず、テーブルの横で毒を吐く。
『あの人、綾菜さんの勤務が終わるまでずっと席を動かないんですよ。綾菜さんにベッタリ張り付いて話しかけて、しつこくデートにも誘っていました。爺さんが若い女の尻を追いかける様子は見ていてみっともなかったですよ』
「日森くん、二階堂さんは亡くなってるのよ。言い方ってものを考えて」
『綾菜さんだって二階堂さんのことを話す時は刺々しいくせに』
綾菜の注意にも日森は悪びれない。言い返された綾菜もそれ以上の反論ができずに口をつぐんだ。