〜Midnight Eden Sequel〜【Blue Hour】
 二階堂が綾菜に迷惑行為を働いていた場は画廊だけではなかった。この店でも二階堂は厄介者だったようだ。

『10月9日と10日に宮越さんと日森さんがどこで何をしていたか、教えていただけますか?』
『それはアリバイってやつですよね。僕と宮越先生のアリバイも聞く必要があるんですか?』

 日森の二階堂への毒の吐きっぷりは、二階堂を疎ましく思っていた確固たる証拠だ。言質を取られたとは思いもしない日森が口元を歪めて抵抗した。

『二階堂さんと少しでも接点があった方には全員伺っています。もちろん、美羽画廊の山野さんにも同じようにお聞きしましたよ。日森さんも宮越さんにも、ご協力願います』

警察への協力を拒絶すれば疑いの対象になることを暗に含ませた九条の微笑は、権力に弱い美大生の口を易易《やすやす》と開かせる。

『僕は9日は大学院のアトリエで制作をしていました。綾菜さんが不在の時はギャラリーバーも休業だから、ここのバイトもなくて9日はほとんど大学で過ごして……、でも10日は昼から大学の友人と展覧会に行きました。僕と友人のSNSにその時の写真もあります。そのまま夜まで友人と居酒屋で飲んでいました』

 証拠はインスタグラムの写真だと主張する日森は、自身のスマートフォンを九条達に差し出した。

日森が友人と観覧した展覧会は10月10日が初日だった。
都内の美術館のエントランスで、初日限定配布のパンフレットを持った日森の写真が彼と、彼の友人のインスタグラムに投稿されている。双方の写真の投稿日は翌日の10月11日。

 日森が10日は友人と一緒にいたとしても、友人と会う前に犯行に及んだ可能性もある。10日は大阪にいた綾菜のような確かなアリバイの証明にはならない。

『宮越さんはいかがです?』
『私は9日と10日はどちらもアトリエにいましたが、それを証明してくれる人はいません。展覧会や取材などの外部との接触がない日はほとんどアトリエに籠もって制作しています』
「画家が誰にも会わない日は珍しくありませんよ。私だってアトリエをシェアしている先生と丸一日以上も顔を合わせない時もありますし……。画家は孤独な職業なんです」

 宮越の話を綾菜が補足する。綾菜と日森のアリバイは裏付けを取るまでは保留、宮越のアリバイは無きに等しい。
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