〜Midnight Eden Sequel〜【Blue Hour】
「刑事さん……じゃなくて、ごめんなさい、前に名刺を頂いていたのにお名前が思い出せなくて」
『九条です。この前一緒にいた刑事は南田』
「あっ、そうそう。九条さんと南田さんだ。九条さんは私服だと印象が変わりますね」
九条の顔をまじまじと見つめた綾菜の瞳には、先ほどの警戒の色はない。九条の私服姿に本当にプライベートの来店だと信用されたみたいだ。
「ご注文は何にしますか? 本格的なバーの品揃えとまではいきませんが、うちもそれなりに種類は揃えていますよ」
『カクテルは堀川さんが作るんですか?」
「そうです。宮越先生はお酒には詳しくないから……。ここだけの話、先生は下戸《げこ》なんですよ。バーの雇われマスターなのにまったく飲めないの」
カクテル作りや会計は綾菜の担当、宮越の仕事は訪れる美術愛好家の話相手だそうだ。どうりで宮越は九条の来店時にも席を立たず、客達とコーヒーや酒を囲んで寛いでいるわけだ。
接客で動き回っているのは綾菜と、九条が見知らぬバーテンダーがひとりいる。
『今日は日森さんは?』
「日森くんは展覧会が近いので、準備のためにしばらく休みです。こちらがメニューになります」
渡されたメニューブックの表紙にはカクテルのイラストが描かれていて、なかなか洒落た作りをしている。さすが画家のいるバーだ。
読みやすい手書きの文字で記載された商品名をひとつひとつ追っていた九条の視線が、ある地点で留まった。
『ドラゴンフライ?』
「ドラゴンフライはジントニックのバリエーションですよ。ジンをジンジャエールで割るので度数はそこまで高くなりません。ドラゴンフライにしますか?」
『いや、ジントニックは好みだけど……』
「ジンジャエール苦手な人?」
『まぁ……』
本音はカクテルの名前とは別の意味の“ドラゴンフライ”のせいで飲む気になれないのだが、そういうことにしておこう。
内心の憂鬱を隠す九条の代わりに、綾菜の細長い指がメニューブックのページをめくった。
「九条さんは柑橘系の飲み物はお好きですか?」
『オレンジジュースはたまに飲みますよ』
「じゃあアップルサンライズはどうです? アップルワインにオレンジジュースを加えたカクテルです。こちらも度数は高くなく、飲みやすいですよ」
『なら、それで』
強すぎない酒なら何でも良かった九条は、綾菜の提案を素直に受け入れた。
『九条です。この前一緒にいた刑事は南田』
「あっ、そうそう。九条さんと南田さんだ。九条さんは私服だと印象が変わりますね」
九条の顔をまじまじと見つめた綾菜の瞳には、先ほどの警戒の色はない。九条の私服姿に本当にプライベートの来店だと信用されたみたいだ。
「ご注文は何にしますか? 本格的なバーの品揃えとまではいきませんが、うちもそれなりに種類は揃えていますよ」
『カクテルは堀川さんが作るんですか?」
「そうです。宮越先生はお酒には詳しくないから……。ここだけの話、先生は下戸《げこ》なんですよ。バーの雇われマスターなのにまったく飲めないの」
カクテル作りや会計は綾菜の担当、宮越の仕事は訪れる美術愛好家の話相手だそうだ。どうりで宮越は九条の来店時にも席を立たず、客達とコーヒーや酒を囲んで寛いでいるわけだ。
接客で動き回っているのは綾菜と、九条が見知らぬバーテンダーがひとりいる。
『今日は日森さんは?』
「日森くんは展覧会が近いので、準備のためにしばらく休みです。こちらがメニューになります」
渡されたメニューブックの表紙にはカクテルのイラストが描かれていて、なかなか洒落た作りをしている。さすが画家のいるバーだ。
読みやすい手書きの文字で記載された商品名をひとつひとつ追っていた九条の視線が、ある地点で留まった。
『ドラゴンフライ?』
「ドラゴンフライはジントニックのバリエーションですよ。ジンをジンジャエールで割るので度数はそこまで高くなりません。ドラゴンフライにしますか?」
『いや、ジントニックは好みだけど……』
「ジンジャエール苦手な人?」
『まぁ……』
本音はカクテルの名前とは別の意味の“ドラゴンフライ”のせいで飲む気になれないのだが、そういうことにしておこう。
内心の憂鬱を隠す九条の代わりに、綾菜の細長い指がメニューブックのページをめくった。
「九条さんは柑橘系の飲み物はお好きですか?」
『オレンジジュースはたまに飲みますよ』
「じゃあアップルサンライズはどうです? アップルワインにオレンジジュースを加えたカクテルです。こちらも度数は高くなく、飲みやすいですよ」
『なら、それで』
強すぎない酒なら何でも良かった九条は、綾菜の提案を素直に受け入れた。