〜Midnight Eden Sequel〜【Blue Hour】
店の扉が開いたかと思えば、歩道に現れた人影は勤務を終えたバーテンだった。彼は道端に佇《たたず》む九条の気配に気づきもせず、下北沢駅の方向に消え去った。
それからどれくらいの時を待ったか彼は知らない。いつの間にか、月を眺める九条の視界に月以外の影が入り込んでいた。
「遅くなってごめんなさい。本当に待っていてくれたんですね」
初めて目にする綾菜の私服は九条の予想と違っていた。黒のライダースジャケットの下は黒っぽいブラウス、膝上のタイトスカートとショートブーツはジャケットの色と揃いの黒色だ。
スカートとブーツの間から覗く細い脚はとても白く、夜の闇に女の美肌が映えている。綾菜がミニスカートを履くイメージを持てなかった理由に思い至った九条は、己の未練がましさに嫌気が差した。
(アイツはミニスカートなんか絶対に履かない女だったから……)
忘れられない女がミニスカートを好まないとしても、忘れられない女に似ているだけの綾菜もミニスカートを履かないと勝手に決めつけて、唐突に見せつけられた女の肌に勝手に動揺している。
この情けない男の狼狽を綾菜には上手く隠せているだろうか? 平常心を保った顔をして九条は綾菜に向き直る。
『話って事件のこと?』
「ああ、話があるって言うのは嘘。九条さんを捕まえておく口実です」
『……はぁ?』
彼女は店で見せた時と同じ意味深な微笑のまま、九条との距離を一歩詰めた。
店で絵画の蘊蓄《うんちく》を傾けていた最中は十代の少女に似た無邪気さを感じたが、そうして大人の女の微笑みを向けられてしまうと、やはりこの女は苦手だと実感する。
忘れられない女と似た出で立ちの女性画家は、忘れられない女が絶対にやらない魔性の笑顔で九条を翻弄する。
「お酒に付き合ってくれません?」
『俺はもう飲んでるんだけど……』
「プライベートなら今は刑事じゃないんでしょ? それとも刑事は女とお酒を飲んじゃいけない規則でもあるんですか?」
どうしてこんな展開になってしまったのか、そもそもどうして今夜、綾菜が居るとわかっていてギャラリーバーに来てしまったのか。
後悔先に立たずとはよく言ったもの。今更、家で大人しく寝ていればよかったと思ってもあとの祭りだ。
『わかった。一杯だけ付き合うよ』
「ええ。渋谷に良いお店があるんです。行きましょう」
視線の攻防戦の末に根負けした九条の隣を、やけに機嫌の良い綾菜が歩く。下北沢駅から井の頭線で渋谷に到着した時にはすでに23時半を過ぎていた。
それからどれくらいの時を待ったか彼は知らない。いつの間にか、月を眺める九条の視界に月以外の影が入り込んでいた。
「遅くなってごめんなさい。本当に待っていてくれたんですね」
初めて目にする綾菜の私服は九条の予想と違っていた。黒のライダースジャケットの下は黒っぽいブラウス、膝上のタイトスカートとショートブーツはジャケットの色と揃いの黒色だ。
スカートとブーツの間から覗く細い脚はとても白く、夜の闇に女の美肌が映えている。綾菜がミニスカートを履くイメージを持てなかった理由に思い至った九条は、己の未練がましさに嫌気が差した。
(アイツはミニスカートなんか絶対に履かない女だったから……)
忘れられない女がミニスカートを好まないとしても、忘れられない女に似ているだけの綾菜もミニスカートを履かないと勝手に決めつけて、唐突に見せつけられた女の肌に勝手に動揺している。
この情けない男の狼狽を綾菜には上手く隠せているだろうか? 平常心を保った顔をして九条は綾菜に向き直る。
『話って事件のこと?』
「ああ、話があるって言うのは嘘。九条さんを捕まえておく口実です」
『……はぁ?』
彼女は店で見せた時と同じ意味深な微笑のまま、九条との距離を一歩詰めた。
店で絵画の蘊蓄《うんちく》を傾けていた最中は十代の少女に似た無邪気さを感じたが、そうして大人の女の微笑みを向けられてしまうと、やはりこの女は苦手だと実感する。
忘れられない女と似た出で立ちの女性画家は、忘れられない女が絶対にやらない魔性の笑顔で九条を翻弄する。
「お酒に付き合ってくれません?」
『俺はもう飲んでるんだけど……』
「プライベートなら今は刑事じゃないんでしょ? それとも刑事は女とお酒を飲んじゃいけない規則でもあるんですか?」
どうしてこんな展開になってしまったのか、そもそもどうして今夜、綾菜が居るとわかっていてギャラリーバーに来てしまったのか。
後悔先に立たずとはよく言ったもの。今更、家で大人しく寝ていればよかったと思ってもあとの祭りだ。
『わかった。一杯だけ付き合うよ』
「ええ。渋谷に良いお店があるんです。行きましょう」
視線の攻防戦の末に根負けした九条の隣を、やけに機嫌の良い綾菜が歩く。下北沢駅から井の頭線で渋谷に到着した時にはすでに23時半を過ぎていた。