〜Midnight Eden Sequel〜【Blue Hour】
渋谷駅前の極彩色に輝くネオンが目に眩しい。限られた夜の自由時間を謳歌する人々の群れを潜り抜けた二人は、セルリアンタワーからほど近い桜丘のバーに入店した。
店内の様相もカップルが目立つ客層も、先ほどまでのギャラリーバーとは趣《おもむき》が異なる、典型的なバーだ。
奥の二人席に九条と綾菜は着席する。
「美大生時代、この店でバイトしていたの。その頃、一緒に働いていた人達はもう残っていないんだけどね。煙草、吸ってもいい?」
『どうぞ』
九条の了承を得て綾菜が咥えた煙草は、ウィンストンのホワイト。過去にその銘柄を好む男を九条は知っている。
いけ好かないその男の顔は思い出したくもない。
「どうしたの? 眉間にシワ寄せた怖い顔してる。煙草、本当は嫌だった?」
『煙草は別に構わない。その銘柄を吸っている奴が、思い出したくない奴だっただけ』
紫煙を細く吐き出した彼女はそれ以上の追及をしなかった。九条も煙草についてそれ以上は語らない。
『なんで俺を誘った?』
「九条さんと個人的な話がしてみたくなったのよ。あの店だと、私とあなたは従業員とお客様、もっと言えば事件の関係者と刑事としてしか話せない。だけどこうしていると、お互いただの人同士になれるでしょう?」
刑事でもない、画家でもない、立場を離れた今の二人はただの男と女だ。ギャラリーバーの勤務中よりも綾菜の化粧が濃くなった気がするのはバーの雰囲気と照明のせい?
選んだカクテルは綾菜がスクリュードライバー、九条はアメリカンレモネード。軽くグラスを合わせて乾杯した彼らは同時にカクテルに口をつけた。
アメリカンレモネードはグラスの中で赤ワインとレモネードが2層になったカクテルだ。レモネードの方が赤ワインよりも比重が重いため下の層に、赤ワインが上の層にある。
モザイクランプの灯りを受けてルビーのように煌めくカクテルは見た目にも美しかった。
典型的なバーであっても、店内の照明は風営法に違反しない程度の明るさが義務付けられている。それに酒の色を楽しむ目的もあるはずのバーの照明は、視界の色を奪うほどの暗さにはならない。
従ってアメリカンレモネードの赤ワインの色を九条は正しく認識できた。
でも綾菜が着ているブラウスは夜道では黒っぽい色としか認識できなかった。下北沢駅に到着した際に、駅構内の照明の下で初めて彼女のブラウスの色がワインレッドだと知った。
(そうか。この気持ちの悪さの正体がやっとわかった)
店内の様相もカップルが目立つ客層も、先ほどまでのギャラリーバーとは趣《おもむき》が異なる、典型的なバーだ。
奥の二人席に九条と綾菜は着席する。
「美大生時代、この店でバイトしていたの。その頃、一緒に働いていた人達はもう残っていないんだけどね。煙草、吸ってもいい?」
『どうぞ』
九条の了承を得て綾菜が咥えた煙草は、ウィンストンのホワイト。過去にその銘柄を好む男を九条は知っている。
いけ好かないその男の顔は思い出したくもない。
「どうしたの? 眉間にシワ寄せた怖い顔してる。煙草、本当は嫌だった?」
『煙草は別に構わない。その銘柄を吸っている奴が、思い出したくない奴だっただけ』
紫煙を細く吐き出した彼女はそれ以上の追及をしなかった。九条も煙草についてそれ以上は語らない。
『なんで俺を誘った?』
「九条さんと個人的な話がしてみたくなったのよ。あの店だと、私とあなたは従業員とお客様、もっと言えば事件の関係者と刑事としてしか話せない。だけどこうしていると、お互いただの人同士になれるでしょう?」
刑事でもない、画家でもない、立場を離れた今の二人はただの男と女だ。ギャラリーバーの勤務中よりも綾菜の化粧が濃くなった気がするのはバーの雰囲気と照明のせい?
選んだカクテルは綾菜がスクリュードライバー、九条はアメリカンレモネード。軽くグラスを合わせて乾杯した彼らは同時にカクテルに口をつけた。
アメリカンレモネードはグラスの中で赤ワインとレモネードが2層になったカクテルだ。レモネードの方が赤ワインよりも比重が重いため下の層に、赤ワインが上の層にある。
モザイクランプの灯りを受けてルビーのように煌めくカクテルは見た目にも美しかった。
典型的なバーであっても、店内の照明は風営法に違反しない程度の明るさが義務付けられている。それに酒の色を楽しむ目的もあるはずのバーの照明は、視界の色を奪うほどの暗さにはならない。
従ってアメリカンレモネードの赤ワインの色を九条は正しく認識できた。
でも綾菜が着ているブラウスは夜道では黒っぽい色としか認識できなかった。下北沢駅に到着した際に、駅構内の照明の下で初めて彼女のブラウスの色がワインレッドだと知った。
(そうか。この気持ちの悪さの正体がやっとわかった)