〜Midnight Eden Sequel〜【Blue Hour】
『それとお前のところの一課長さんに伝えてくれ。例の遺体を切断した人間には、おそらく解剖学の知識がある』
『解剖学?』
『ただ闇雲に切ってはいないってことさ。人体のどこをどう切ればいいか、ある程度の解剖学の知識がある人間のやり方だった』

 眠たげな瞳を細めた早瀬は、意味深に口元を上げた。九条は早瀬の人間性を嫌というほど知っている。彼がこういう顔をする時は必ず腹に一物ある時。

早瀬は自分には答えがわかっていても、他人にはまどろっこしいヒントしか教えない人間だ。

『でもあれは医者の仕業ではない。解剖の技術としては素人同然。……さらに言えば20年前の事件の犯人、ドラゴンフライにも解剖学の知識があったと言われている』

 九条の心にざわめきを残して、友人の解剖医は去っていく。新たに得られた点と点、見えない事実と見えた真実。

 混乱してどうにも考えがまとまらない。病院の駐車場に向かう道すがら、九条は相棒のスマホに通話を繋げた。

南田には九条の頼みで調べ物をしてもらっている。今、南田は日本橋にいるらしく、あちらの街の雑踏がスマホ越しに聴こえてきた。

{お前のタブレットにメール送ったから、とりあえずそれ見ておけよ。あとでかけ直す}

 目的地に到着した南田との通話をひとまず中断した九条は、車内でタブレット端末を起動させた。確かに30分前に南田からメールが届いている。

 メールに添付してあるURLを開くと、ある美術系サイトの特集記事が表示された。下北沢のギャラリーバー【待宵】の紹介記事だ。

記事では堀川綾菜がインタビューに答えている。ギャラリーバーの写真も掲載されており、中にはアトリエで綾菜を撮影した写真も数枚あった。


──お店の椅子は堀川さんの手作りなんですね。とても素敵です。

──〈テーブルと雰囲気が合う椅子がどこにもなくて、私が作りました。大学ではカリキュラムに彫刻の授業もありましたし、木を彫ったり切ったりするのも得意なんです。仕事に煮詰まった時は、気分転換も兼ねて大きな立体物も制作しますよ。愛用の電動ノコギリでなんでも切ってしまうので、アトリエをシェアしている宮越先生にも“また切ってるのか”って呆れられています(笑)〉──

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