〜Midnight Eden Sequel〜【Blue Hour】
九条の目的は宮越と談笑することではない。ここにコーヒーを飲みにきたわけでもない。
だが、最初だけは偉大な芸術家に敬意を払って宮越のペースに付き合ってやろう。
四人席のテーブルを挟んで、九条は宮越の真向かいに座った。宮越の指示でコーヒーを淹れている最中の綾菜は、カウンター横のスツールに浅く腰掛けている。
『20年前の女性連続殺人事件について宮越さんにお話を伺いたく、任意同行を求めに参りました』
『20年前……とは。随分古いお話をされますね。てっきり二階堂さんの事件に関して、まだ私達が疑われているのかと思ってしまいましたよ』
任意同行の要請を突き付けられても美術界の巨匠は落ち着いていた。九条も、始めからこの曲者を落とせるとは思っていない。
『任意同行に同意いただけた際は、二階堂さんの件でもいくつかお聞きすることになります。我々は、1999年から2001年にかけて起きた女性連続殺人事件の犯人を宮越さんだと考えています』
宮越を名指しした瞬間、それまで九条と宮越のやりとりを静観していた綾菜が動いた。
「任意なら拒否もできるでしょう? その事件の犯人が先生だと示す証拠もないのに、言いがかりで取り調べをされるのは不愉快です。もしも逮捕状を取れたら、その時にお越しください」
彼女は宮越を庇うように九条と宮越の視界の狭間に割り込んできた。怒気を孕んだ女の表情は、逮捕状を取れるものなら取ってみろと言いたげだ。
まったく、綾菜も宮越も予想通り一筋縄ではいかない。
『それなら俺がどうして宮越さんを20年前の連続殺人犯だと確信したか、ひとつずつ説明していきましょう。……宮越さん、あなたの生家は裕福とは言えない家庭だったそうですね。家の貧しさのため、あなたは六歳の時、親戚の家に養子に出されたが、その家にはあなたの四つ年上の従姉《イトコ》であるサキ子さんがいた』
童謡の赤とんぼの作詞者、三木露風と宮越の境遇が似ていることは、他ならぬ堀川綾菜がもたらした情報だ。
三木露風も五歳の頃に両親が離婚。露風は祖父の家で養育されるが、その家には住み込みで家事や子どもの世話をする“姐《ねえ》や”と呼ばれる女性がいた。
赤とんぼは、姐やの背中に背負われた露風が見た、夕焼けの景色を歌にしたものだった。
だが、最初だけは偉大な芸術家に敬意を払って宮越のペースに付き合ってやろう。
四人席のテーブルを挟んで、九条は宮越の真向かいに座った。宮越の指示でコーヒーを淹れている最中の綾菜は、カウンター横のスツールに浅く腰掛けている。
『20年前の女性連続殺人事件について宮越さんにお話を伺いたく、任意同行を求めに参りました』
『20年前……とは。随分古いお話をされますね。てっきり二階堂さんの事件に関して、まだ私達が疑われているのかと思ってしまいましたよ』
任意同行の要請を突き付けられても美術界の巨匠は落ち着いていた。九条も、始めからこの曲者を落とせるとは思っていない。
『任意同行に同意いただけた際は、二階堂さんの件でもいくつかお聞きすることになります。我々は、1999年から2001年にかけて起きた女性連続殺人事件の犯人を宮越さんだと考えています』
宮越を名指しした瞬間、それまで九条と宮越のやりとりを静観していた綾菜が動いた。
「任意なら拒否もできるでしょう? その事件の犯人が先生だと示す証拠もないのに、言いがかりで取り調べをされるのは不愉快です。もしも逮捕状を取れたら、その時にお越しください」
彼女は宮越を庇うように九条と宮越の視界の狭間に割り込んできた。怒気を孕んだ女の表情は、逮捕状を取れるものなら取ってみろと言いたげだ。
まったく、綾菜も宮越も予想通り一筋縄ではいかない。
『それなら俺がどうして宮越さんを20年前の連続殺人犯だと確信したか、ひとつずつ説明していきましょう。……宮越さん、あなたの生家は裕福とは言えない家庭だったそうですね。家の貧しさのため、あなたは六歳の時、親戚の家に養子に出されたが、その家にはあなたの四つ年上の従姉《イトコ》であるサキ子さんがいた』
童謡の赤とんぼの作詞者、三木露風と宮越の境遇が似ていることは、他ならぬ堀川綾菜がもたらした情報だ。
三木露風も五歳の頃に両親が離婚。露風は祖父の家で養育されるが、その家には住み込みで家事や子どもの世話をする“姐《ねえ》や”と呼ばれる女性がいた。
赤とんぼは、姐やの背中に背負われた露風が見た、夕焼けの景色を歌にしたものだった。