〜Midnight Eden Sequel〜【Blue Hour】
『仰る通り、私はずっとサキ子を捜していた。“私だけの”サキ子をね。【お嬢さん】の処女喪失の相手は私ではない。あの後に駆け落ちすることになる妻子持ちの男と初めて床を共にした直後、私はサキ子の部屋に呼ばれた。“あの人に処女を捧げたばかりの私を絵にして永久にこの世に残してくれ”と、私の好意を知っていて頼んだんだ。彼女は不倫の恋に処女を捧げ、自分に好意を寄せる私を利用した。酷い女だろう?』

 一説には、男が女性画を描く場合、男は自分にとってのファム・ファタール(運命の女)を描いてしまう傾向があるようだ。年下の少年の恋心を翻弄したサキ子は、宮越の永遠のファム・ファタールだった。

『部屋には男と女の体液が交ざった臭気が立ち籠めていてねぇ。その地獄の空間の中で、恋い焦がれた女の裸を描いた。あんなに地獄と天国を行き来して絵を描いた日は後にも先にもあの一度きりだ。モデルの容姿にサキ子に似た女性を選んでしまうのは、未練がましい男のただの醜態に過ぎない。それがどうして殺人犯にされてしまうのかな?』

 恋い慕う女が他の男に抱かれた直後に、その女の裸を描かされた宮越の胸中は想像を絶する。けれど彼に同情はしない。

『長谷部法子さん、北川亜由さん、遠藤佳乃さん、松林千歳さん、川村夏希さん、吉居礼香さん、大倉美那子さん』

 ドラゴンフライに殺された女性達の名を順に述べながら、九条は懐から取り出した顔写真を七枚、対面する宮越と綾菜に見えるようにテーブルに並べた。

『20年前に殺害された被害者の女性達の写真です。彼女達は皆、痩せ型で細面、目元は切れ長の奥二重か一重、口は小さめ、いわゆる和風美人と呼ばれるタイプの女性です。これらの外見の特徴は【お嬢さん】で描かれたサキ子さんと類似しており、そして……』

九条の視線は壁際に注がれる。そこには先日と同様、宮越が過去に描いた作品群が鎮座していた。

『被害者達の外見の特徴は、あそこに展示されたあなたの女性画のモデルとも一致する。左端の着物を着た女性は北川亜由さん、その隣のティーカップを持った女性の絵は、川村夏希さんに非常によく似ていると感じました』

 二度目に【待宵】を訪れたあの夜、20年前の捜査資料で被害女性の顔を記憶したばかりだった九条は、店に飾られた宮越の女性画に既視感を覚えた。
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