〜Midnight Eden Sequel〜【Blue Hour】
ギャラリーストーカーのブラックリストの常連だった二階堂には、確かに絵画への審美眼が備わっていた。まさかその審美眼が仇となって殺されてしまうとは。
自業自得の面は否めないものの、二階堂が哀れだ。
「残酷よね。私の絵は世間での評価がされなかったのに“宮越晃成の名がついた絵”になるだけで評価がもらえた。私が描いた作品が私の名前では売れなくて、先生の名前がついた途端に高値で売れる。宮越先生のコレクターは作品そのものじゃなく、名前で購入する馬鹿が多いのよ」
古今東西、広く名の知れた芸術家達は死してようやく評価を得る者が多かったと聞く。存命中は見向きもされなかった芸術家の作品が、死後に価値を見出された話は数多と溢れている。
宮越の亡霊に甘んじるしかなかった綾菜の苦悩、どんな手段を使ってでも画家であり続けた絵画への執着、恩師の名声を利用する野心……。
彼女は宮越を守りたかったと語ったが、恩師を守るために死体の切断を請け負えるとは思えない。
綾菜が真に守りたかったものは“宮越晃成の名前がついた自分の絵”ではないのか?
それが綾菜の正義だとしても、何ひとつ共感も理解もできない。宮越と綾菜の歪《いびつ》な共依存関係も、単なる盲目的な崇拝の感情だけではない気がした。
『折り紙の赤とんぼは、宮越さんが大学時代に君に教えた折り方だと言っていた。何故、死体に赤とんぼを添えた? アレがあったから俺達は20年前の連続殺人との関連を疑うことになったんだ』
杉並バラバラ殺人と20年前の女性連続殺人を結びつける所以《ゆえん》が、血まみれの赤とんぼだ。二階堂の死体の傍らに赤とんぼの折り紙がなければ、20年前のドラゴンフライの事件は浮上しなかった。
「“アレ”は私の作品だもの。完成させたらサインを書き込まないといけないでしょう?」
バラバラに切断した死体を自分の作品と称した女の嘲笑《ちょうしょう》が、取り調べ室に虚しく響く。
──“私ね、きっと九条さんのこと好きになる”──
待宵の月の下で囁かれた甘い言葉を思い出せば、瞼の裏に涙の予兆を感じて彼は目頭を押さえた。
もっと早く出逢えていたら……そう思っているのは、彼だけかもしれない。もっと早く出逢えていたって、きっと何も変わりやしない。
瞳の雫を溢さないように必死で抑えても、心の雨はいつまでも止まなかった。
自業自得の面は否めないものの、二階堂が哀れだ。
「残酷よね。私の絵は世間での評価がされなかったのに“宮越晃成の名がついた絵”になるだけで評価がもらえた。私が描いた作品が私の名前では売れなくて、先生の名前がついた途端に高値で売れる。宮越先生のコレクターは作品そのものじゃなく、名前で購入する馬鹿が多いのよ」
古今東西、広く名の知れた芸術家達は死してようやく評価を得る者が多かったと聞く。存命中は見向きもされなかった芸術家の作品が、死後に価値を見出された話は数多と溢れている。
宮越の亡霊に甘んじるしかなかった綾菜の苦悩、どんな手段を使ってでも画家であり続けた絵画への執着、恩師の名声を利用する野心……。
彼女は宮越を守りたかったと語ったが、恩師を守るために死体の切断を請け負えるとは思えない。
綾菜が真に守りたかったものは“宮越晃成の名前がついた自分の絵”ではないのか?
それが綾菜の正義だとしても、何ひとつ共感も理解もできない。宮越と綾菜の歪《いびつ》な共依存関係も、単なる盲目的な崇拝の感情だけではない気がした。
『折り紙の赤とんぼは、宮越さんが大学時代に君に教えた折り方だと言っていた。何故、死体に赤とんぼを添えた? アレがあったから俺達は20年前の連続殺人との関連を疑うことになったんだ』
杉並バラバラ殺人と20年前の女性連続殺人を結びつける所以《ゆえん》が、血まみれの赤とんぼだ。二階堂の死体の傍らに赤とんぼの折り紙がなければ、20年前のドラゴンフライの事件は浮上しなかった。
「“アレ”は私の作品だもの。完成させたらサインを書き込まないといけないでしょう?」
バラバラに切断した死体を自分の作品と称した女の嘲笑《ちょうしょう》が、取り調べ室に虚しく響く。
──“私ね、きっと九条さんのこと好きになる”──
待宵の月の下で囁かれた甘い言葉を思い出せば、瞼の裏に涙の予兆を感じて彼は目頭を押さえた。
もっと早く出逢えていたら……そう思っているのは、彼だけかもしれない。もっと早く出逢えていたって、きっと何も変わりやしない。
瞳の雫を溢さないように必死で抑えても、心の雨はいつまでも止まなかった。