〜Midnight Eden Sequel〜【Blue Hour】
 宮越晃成の二度目の聴取は先輩刑事の杉浦が担当していた。立ち会いの九条は、取り調べ室の隅で宮越の一挙一動の観察に徹した。

『私を守るために綾菜が罪を背負うことはなかったのに……』

 供述の最中、宮越の丸めた背中が震え始めた。愛弟子に死体損壊と死体遺棄という罪を犯させ罪人にしてしまったことを悔いて、自責の念にかられる巨匠……。

そう、見えなくもない。いや、そう見えすぎるくらいだ。

 杉浦が背後の九条と目を合わせ、交代の合図を送る。この底知れない後味の悪さを感じているのは九条だけではない。
すべてが上手く出来過ぎていて、気持ちが悪い。

九条は今まで杉浦が座っていた椅子に腰掛け、向かいの宮越と対峙した。

『そうやって犯した罪に後悔している風に自分を装い、堀川さんに死体の処理をさせるように彼女をマインドコントロールしたんですか?』
『……何のことでしょう?』

 俯《うつむ》く顔を上げた宮越の瞳に鋭い光が宿る。この瞳のぎらつきを、九条は嫌というほど見てきた。
青を失った画家の瞳は紛れもなく犯罪者の瞳だ。

『堀川さんに20年前の罪を告白して、彼女はどうするか。あなたには彼女が庇ってくれる確信があった。あなたの代わりに宮越晃成として作品を描くことが、彼女の自尊心を保っていたと知っていたから』
『……綾菜は、とてもいい子です。良い弟子を持った私は幸せ者ですよ』

相変わらず背中は丸めたまま、宮越は相対する九条に向けて笑い返した。ぞっとするほど柔らかい微笑みは、弟子を隠れ蓑《みの》にすることも殺人も厭《いと》わない、宮越の残虐さを物語る。

『堀川さんは二階堂さんの死体に赤とんぼの折り紙を添えた理由を、自分のサイン代わりだと言っていました。彼女は20年前のあなたとまったく同じことをした』
『ああ……。まさか綾菜も死体に赤とんぼを止まらせているとは思わなくて驚いたな。私は綾菜に過去の殺人は明かしても、赤とんぼの折り紙のことは話していなかった。それなのに私の思考を完璧にトレースしてくれるとは……。ただし、綾菜の赤とんぼは少々蛇足でした。芸術点はゼロ点だ』

 今回と20年前の赤とんぼの一致は宮越自身もあずかり知らない偶然だった。自分のために死体を切断した弟子が残したサインを蛇足と批評するこの男が、九条には二階堂よりも醜悪な人間に思えた。
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