〜Midnight Eden Sequel〜【Blue Hour】
解剖結果を九条の先輩刑事の杉浦誠が報告する。
『遺体は損壊が激しく、切断は電動ノコギリか、その類の刃物が使用されたと見られます。死後3日〜4日程度と推測、死亡推定時刻は10月9日から10日の間です』
二階堂の頭部には殴打の傷が複数あった。傷の形状から、犯人はカナヅチのような鈍器を使って“左手”で被害者の側頭部を殴打。
倒れた被害者の後頭部を同じ凶器で何度も殴って殺害した後、死体を切断したのだ。
最初の殴打を左手で行ったことから、犯人は左利きと推測された。
杉浦の報告を聞き終えた上野恭一郎は一度頷き、机の片隅に控えるビニール袋を手に取って立ち上がった。ビニール袋の中にある赤黒い“何か”を九条は見据える。
『犯人に繋がる重要な手がかりがこれだ。ファイル3を開いてくれ』
タブレット端末の捜査資料からファイル3の画像データを開くと、上野が掲げた物と同じ物の写真が画面に写った。
『折り紙?』
『元々が赤い折り紙のようだが、血まみれで赤黒くなってるな。これ何に見える?』
『鳥……? にしては体が細長い気がする』
隣の南田と小声でやりとりをしながら、九条は画面の写真を凝視した。赤い折り紙で折られた何かの動物は鳥にも見えるが、鳥にしては両方の羽根が二枚ずつあり胴体も細長い。
九条と南田が正体を当てる前に答えは上野一課長が教えてくれた。
『これはトンボの折り方だ。俺は20年前にも、これとまったく同じ血まみれの赤トンボを見たことがある。“ドラゴンフライ”、この通称を警察学校の講習でお前達も聞いたことがあるだろう?』
ドラゴンフライの名に一瞬で室内がざわついた。20年前に警察が取り逃がした連続殺人犯の名は、警察学校の講習の題材としてどの世代の刑事達にも語り継がれている。
1999年から2001年にかけて東京で起きた連続女性バラバラ殺人。被害者は20代から30代までの女性で、全身を切断された状態でゴミ袋に詰めて遺棄されていた。
その有り様だけでも極めて異常性の高い犯行だが、さらに当時の捜査本部の刑事達を困惑させた“犯人の落とし物”があった。
赤色の折り紙で作られた赤トンボがひとつ、死体と共にゴミ袋に入っていたのだ。
死体に寄り添う血まみれの赤トンボは警察への挑発か、犯人からの何らかのメッセージだと考えられたが、犯人の目撃情報も被害者達の共通点もなく捜査は暗礁に乗り上げた。
連続殺人事件は1999年10月から2001年3月まで続き、被害者の数は七人に及んだ。しかし2001年3月以降、血まみれの赤トンボを従えた女性連続バラバラ殺人は一度も起きなかった。
事件は被疑者不明のまま迷宮入り。警察内部では、女性連続バラバラ殺人の殺人鬼の通称を赤トンボになぞらえて“ドラゴンフライ”と呼んだ。
20年前と現在の共通点である赤トンボの物証は世間に公表されておらず、その事実を知るのは犯人と警察関係者のみ。
過去の事件との相違点は20年前の被害者達は若年層の女性だったのに対して、今回の被害者は還暦を過ぎた男。
20年前の赤トンボからは指紋は取れなかった。今回の杉並バラバラ殺人の赤トンボからも指紋は採取できていない。
これは20年前の殺人鬼“ドラゴンフライ”の再来なのか?
お前は誰の手で産み出された?
九条が眼差しを送って問いかけても、血まみれの赤トンボは何も語ってはくれなかった。
『遺体は損壊が激しく、切断は電動ノコギリか、その類の刃物が使用されたと見られます。死後3日〜4日程度と推測、死亡推定時刻は10月9日から10日の間です』
二階堂の頭部には殴打の傷が複数あった。傷の形状から、犯人はカナヅチのような鈍器を使って“左手”で被害者の側頭部を殴打。
倒れた被害者の後頭部を同じ凶器で何度も殴って殺害した後、死体を切断したのだ。
最初の殴打を左手で行ったことから、犯人は左利きと推測された。
杉浦の報告を聞き終えた上野恭一郎は一度頷き、机の片隅に控えるビニール袋を手に取って立ち上がった。ビニール袋の中にある赤黒い“何か”を九条は見据える。
『犯人に繋がる重要な手がかりがこれだ。ファイル3を開いてくれ』
タブレット端末の捜査資料からファイル3の画像データを開くと、上野が掲げた物と同じ物の写真が画面に写った。
『折り紙?』
『元々が赤い折り紙のようだが、血まみれで赤黒くなってるな。これ何に見える?』
『鳥……? にしては体が細長い気がする』
隣の南田と小声でやりとりをしながら、九条は画面の写真を凝視した。赤い折り紙で折られた何かの動物は鳥にも見えるが、鳥にしては両方の羽根が二枚ずつあり胴体も細長い。
九条と南田が正体を当てる前に答えは上野一課長が教えてくれた。
『これはトンボの折り方だ。俺は20年前にも、これとまったく同じ血まみれの赤トンボを見たことがある。“ドラゴンフライ”、この通称を警察学校の講習でお前達も聞いたことがあるだろう?』
ドラゴンフライの名に一瞬で室内がざわついた。20年前に警察が取り逃がした連続殺人犯の名は、警察学校の講習の題材としてどの世代の刑事達にも語り継がれている。
1999年から2001年にかけて東京で起きた連続女性バラバラ殺人。被害者は20代から30代までの女性で、全身を切断された状態でゴミ袋に詰めて遺棄されていた。
その有り様だけでも極めて異常性の高い犯行だが、さらに当時の捜査本部の刑事達を困惑させた“犯人の落とし物”があった。
赤色の折り紙で作られた赤トンボがひとつ、死体と共にゴミ袋に入っていたのだ。
死体に寄り添う血まみれの赤トンボは警察への挑発か、犯人からの何らかのメッセージだと考えられたが、犯人の目撃情報も被害者達の共通点もなく捜査は暗礁に乗り上げた。
連続殺人事件は1999年10月から2001年3月まで続き、被害者の数は七人に及んだ。しかし2001年3月以降、血まみれの赤トンボを従えた女性連続バラバラ殺人は一度も起きなかった。
事件は被疑者不明のまま迷宮入り。警察内部では、女性連続バラバラ殺人の殺人鬼の通称を赤トンボになぞらえて“ドラゴンフライ”と呼んだ。
20年前と現在の共通点である赤トンボの物証は世間に公表されておらず、その事実を知るのは犯人と警察関係者のみ。
過去の事件との相違点は20年前の被害者達は若年層の女性だったのに対して、今回の被害者は還暦を過ぎた男。
20年前の赤トンボからは指紋は取れなかった。今回の杉並バラバラ殺人の赤トンボからも指紋は採取できていない。
これは20年前の殺人鬼“ドラゴンフライ”の再来なのか?
お前は誰の手で産み出された?
九条が眼差しを送って問いかけても、血まみれの赤トンボは何も語ってはくれなかった。