〜Midnight Eden Sequel〜【Blue Hour】
 ギャラリーストーカーはあらゆる芸術分野に出没する。画家だけでなく彫刻家や写真家、他の分野の芸術家も含めれば被害は数えきれない。

 加害者は男性ばかりではない。アイドルのおっかけ気分で男性作家を追い回す女性ギャラリーストーカーや、女性が女性作家を、男性が男性作家にギャラリーストーカーを行う場合もある。

彼ら、彼女らは個展が開催される期間に画廊に現れ、画廊に在廊するお気に入りの画家に必要以上に話しかけ、上から目線の説教や作品への批評を語り、時には手を握る、頭を撫でるなどのわいせつ行為、画廊の前での待ち伏せ、食事の誘いや肉体関係を強要するケースも多い。

『ギャラリーストーカーの大半が、決して安くはない絵画を趣味で買い取れるだけの金銭の余裕がある人です。それなりの身分のいい歳をした人間が、分をわきまえずに芸術家との“あわよくば”を狙って付け回す。画家を守るために、うちでは去年から画家の在廊日は非公開にしました。本当に、彼らの存在にはうんざりしますよ』

 画廊スタッフとして画家を守る責任のある山野も、これまで相当な気苦労があったらしい。

 二階堂がギャラリーストーカーのブラックリストの常連ならば、現在も被害に遭っている画家がいるはず。話が落ち着いた頃合いに九条は切り出した。

『最近、二階堂さんがギャラリーストーカーをしていた画家さんはいらっしゃいますか?』
『いるにはいますけど……』

ここまで息を吐くようにつらつらと愚痴を漏らしていた山野は話題を変えると急に閉口した。画家の個人情報は話せないと言いたげな顔だ。

『二階堂さんと少しでも接点がある方には全員、話を聞いています。二階堂さんから迷惑行為を受けていた画家さんのお心当たりがあるのなら、話していただけますか? 事件の早期解決のためにもご協力願います』

 愛想笑いの南田が穏和に諭すと渋々、山野は重たい口を開いた。

『あのぅ、お二人共さすがに画家の宮越晃成さんはご存知ですよね……?』

 山野の重たい口をやっとこじ開けられたと思えば、今度は九条と南田が二人して知らないと答えるのも憚《はばか》る気まずい雰囲気になる。
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