ハイスペ上司の好きなひと
「なるほど…そう、だったんですね…」
笑顔を作ったつもりだが、上手く笑えているだろうか。
有難い事にその後すぐに始業開始となり、間も無く出社してきた課長に呼ばれて藤宮その場を離れていった。
冷めやらぬ動悸と絶望は未だ胸の中に燻り、紫は何の感情も持たずに淡々と日々のルーティンをこなしていく。
こういう時に泣ければ少しは楽になるのかも知れないが、生憎涙はかけらも浮かばない。
最初から負け確していた恋に、今更何を嘆けというのだろうか。
毎日の業務の一環となっているフランスの記事に目を通しながら概要をまとめていると、チャットが飛んできて画面の端に文字が表示される。
[本日11時、第3会議室にて打ち合わせ]
メンバーの名前には自分と飛鳥、藤宮の名前があった。
今日中には話があるだろうなとは思っていたので驚きはしない。
驚きはしないが、憂鬱さはある。
短く承知しましたと返信し、紫は一度席を立った。
向かう先は給湯室で、ご自由にどうぞと書かれた棚の中からカフェオレのスティックを取りマグカップにお湯を注ぐ。
いつも見るだけで幸せな気持ちになれたストラスブールで買ったマグカップも、今は少し胸が痛む。