ハイスペ上司の好きなひと
「紫、あんたはいちいちお兄ちゃんに突っかからないの。蒼慈もよ、分かってるんだったら妹にもっと優しくしてやりなさい」
「……」
「優しく、ねえ…」
紫は無視し、蒼慈は肘をついて相変わらずのニヤケ顔を晒している。
そんな中、父だけは哀れみの表情で紫を眺めている。
その顔やめてくれ、自他共に認めるファザコンの紫は父には弱いのだ。
「べ、別に私の話はいいでしょ。それこそ蒼慈はどうなのよ、私より年上でしょ」
「残念。俺は大学からずっと付き合ってる彼女いンだわ」
「くっ…!」
蒼慈の勝ち誇った顔に紫は拳をテーブルに叩きつけた。
「なんっでこんな鬼畜外道に彼女なんて…!趣味悪過ぎるでしょ…!」
「おうおう喧嘩売ってんなら買ってやるから表出ろや」
「やめなさいって言ってるでしょ!」
母にまた一喝され、兄妹は渋々黙り込む。
その時店員がクスクスと笑いながら注文していた料理を持ってきて、母がその女性に「騒がしくてごめんなさいねぇ」なんて謝っていた。
そんな母を横目に届いた料理をとりわけようと手を伸ばせば、蒼慈が寄越せとトングを奪い取ってきた。