ハイスペ上司の好きなひと
「…辛気臭え面晒してんなよ、調子狂うんだわ」
「え…」
言いながら兄は父と母の分をよそったあと、誰よりも多く自分の分を取り分けて渡してきた。
「男なんて他に山ほど居るだろ」
「……」
目線を合わさずそう言う兄に心から拍子抜けした。
まさかあの兄からそんな言葉を聞こうとは。
もしかして、やたらと突っかかってきたのはこちらの心情を察しての事だったのだろうか。
そう思うと若干ではあるが元気が出るのだから不思議だ。
ありがとうだなんて、絶対に言ってはやらないけど。
「なによ、蒼慈もちゃんと優しい事言えるじゃない」
「別にそんなんじゃねえ」
母に褒められ心底嫌そうな顔をするので、いまいちその本音は分からなかったが。
その後は各々が好きな料理をつつき、母が9割ほど喋り倒して久しぶりの家族の会合を終えた。
食事代の支払いを母に任せて先に外に出て待っていると、父がそっと寄ってきて話しかけてきた。
「紫、お母さんは結婚なんて言い方したけど、誤解しないでね。ただ必要以上に頑張り過ぎる紫を心配してるだけだから」
「お父さん…」
確かに、就職してすぐの頃帰省のたびにやつれていく自分を見て酷く心配をかけていたのは知っている。
ワーホリに行く際も海外だなんてと反対しつつも、最後はこちらの意を汲んで送り出してくれた。
もちろん母の自分を心配する気持ちは分かっている。
ただ自分本位な気持ちで、恋人や結婚を強要している訳じゃない事も。