ハイスペ上司の好きなひと
「…分かってるよ。いつも心配かけてごめんね、お父さん」
「うん。蒼慈も…炎慈も、絶対言わないけど紫を心配してるからね」
「それは…どうだろう」
疑いの視線を向ければ、スマホを片手に聞いていないフリを決め込んでいた蒼慈がこちらを睨み返してくる。
「誰がこんな可愛げのねえ女心配するかよ」
「……」
ほらみろと言わんばかりに兄を指差して父を見れば、眉を垂らして笑うだけだった。
「けど、お前は生意気なくらいが丁度いいんじゃねえの」
しかし次いで出た言葉に、意味がわからず眉を寄せた。
「どういう意味よ」
「どうせ外では物分かりのいい優等生演じてんだろ。んなの男にとっちゃ面白味のねえただの良い子ちゃんってだけで終わるのがオチなんだよ」
「……」
珍しく的を得たというか、腑に落ちる部分しかない台詞に反論を忘れて黙り込んだ。
七瀬を引き合いに出すのは癪だが、彼女が異性に人気があるのはそれが理由のひとつかもしれない。
時には我儘を上手く使うのも手ということか。
そうしていると会計を終えた母が店から出てきて、その場で男性陣と女性陣に別れて解散となった。