ハイスペ上司の好きなひと



「えっと…これはあの箱で、こっちは処分で…」


週末の夜。紫は独り言を呟きながら荷造りをしていた。

2年の歳月を経て部屋の更新時期が近づき、紫は更新を止めた。理由は勿論、恋人との同棲の為だ。

引越しを翌日に控え、荷造りもいよいよ大詰めだ。とはいえ、この1ヶ月で少しずつ季節はずれの衣類など使用頻度の低いものは新しい住居へ運び込んでいる。

家具家電もほぼリサイクル用品店行きなので、それほど大変というわけではない。

そうしてふと動かしていた手を止め、紫は物がだいぶ減り寂しくなった部屋の中を見渡した。


「…あっという間だったなあ…」


一人しかいない部屋でぽつりと漏らす。

かつての住居はこうして声を発するのも憚られたほどだが今はその心配も無く、生活音も度を越さなければ問題は無かった。

恋人が時折尋ねてきて話がつい盛り上がっても、近隣から特に文句を言われたこともない。そんな居心地の良かった部屋も、今日で最終日となる。

けれど不思議と寂しさを感じないのは、これから待つ恋人との同棲に胸を躍らせているからだろう。


紫が頬を染め口角を上げた時、部屋の中にインターホンの音が響く。紫はすぐに立ち上がり、訪問者を招き入れた。


「航くん!」


笑顔を向ければ返される微笑み。交際を始めて2年弱だが、愛しいものを見つめるような熱い視線は変わらず向けられ、その度に紫の胸は熱くなる。


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