ハイスペ上司の好きなひと



「気が引けるなら俺の居ない時だけ来るのでもいい。君の引越し費用が貯まるまでの期間限定という形での提案だ。どうだろう?」
「……」


正直これ以上ない程にありがたい提案だった。

強がってはみたが自宅アパートで警察沙汰があって安心して過ごせるほど肝は座ってはいない。

親にだって出来れば心配などかけたくない。

それに住所はそのままにして形だけお邪魔させてもらうという事ならば、誰に報告する必要も無い。

まさに目から鱗だ。


「…本当に、甘えてもいいのでしょうか。その…恋人の方とかは…」
「心配しなくても長いこと恋人は居ないし、そもそも居たらこんな提案はしない」
「それは…そうですね」


確かに、どれほど女性社員に言い寄られても始終スンとした表情をしている飛鳥が、隣人のように女とあらば手当たり次第手を出すような不誠実な真似はしないだろう。

だとすれば尚更この提案は渡りに船だ。

あまり返事を待たせるのもいかがなものかと思い、紫は再び深々と頭を下げた。


「…本当に申し訳ないのですが、お言葉に甘えさせていただいてもよろしいでしょうか」



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