ハイスペ上司の好きなひと
無事に航輝の家に引っ越しを済ませ、正式な同棲をして初めての出社日。
同じ時間に家を出て同じ場所に向かうむず痒さを感じながら会社のビルに入ると、2人の背後から明るい声がかけられた。
「おー!お二人さん。今日もアツいねえ」
ドキッと大きな音を当てて紫が振り返ると、溌剌とした笑顔の一ノ瀬が立っていた。
「お、おはようございます!一ノ瀬課長代理!」
「おはようございます」
ほぼ同時に挨拶を返す紫と航輝に、一ノ瀬は嬉しげに口角を上げた。
「仲良さそうでなにより。けど飛鳥、お前はもっと自重しような?」
「?何がです?」
「何がってお前…」
そう言い、一ノ瀬は分かりやすく視線を下げる。
「まだエントランスとはいえ一応会社の中なのに、ずっと彼女に触れたままってのはいかがなものかと」
「!?」
一ノ瀬の言葉どおり、飛鳥の手は紫の腰に添えられたままでそれに気付いた途端に紫は弾けるように飛び退いた。
「すす、すみません!公私混同が過ぎました!」
「いや、俺が注意したのは古賀ちゃんじゃなくて飛鳥の方だから」
頭を下げる紫とは対照的に反省の色の欠片も見えない航輝は、紫に触れていた手を懐に仕舞う。
「駄目ですか」
「ダメっていうか…お前、そんなおおっぴろげにして恥ずかしくねえの?」
「長い間海外支社に居たもので。これが普通かと」
「いや…ここ日本だから…」
呆れた声を出す一ノ瀬に恥ずかしさで頭を抱えながら、紫はセキュリティゲートに社員証をかざして抜ける。
エレベーターを待つ間も3人並んだが、背の高い男2人に挟まれ紫は非常に居た堪れない気持ちになった。