ハイスペ上司の好きなひと
「それは嫌だ」
「会社の中だけだよ?手繋ぐのはせめて最寄り駅までにするとか」
「会社公認の仲なんだから別にいいだろ」
「けど…」
「紫が隣にいて触れられねえってどんな拷問だ」
「……えっと…」
どこまでも甘えたらしい恋人は、何を言ってもイヤだと首を振る。お手上げだと困り顔をすれば、航輝は少しだけ眉を下げた。
「…紫は、嫌だったのか?」
珍しく見せるその顔に紫は目を丸くした後、穏やかに笑った。
「…私は、航くんがしてくれること全部嬉しいよ」
「そうか…」
あからさまにホッとした顔をする航輝に、紫は思わずキュンとする。
「けど、仕事のときの真剣な顔した航くんはもっと素敵だから、それも見てみたいな」
「……」
紫の言葉に航輝はぐっと口をつぐむ。そして少しして、小さく笑った。
「…紫は本当に、俺を転がすのが上手いな」
「航くんだって。出会った時から私は振り回されてばっかりだよ」
「…そうか」
呟くように言った航輝はふと視線を落とす。そして膝に置かれていた紫の左手を取り、指にチュッとキスをした。
「ならずっと、そのまま隣で俺だけを見ててくれ」
航輝の甘い視線に、それだけで溶かされたような感覚に陥る。例え愛情が少し重くても、自分を見てもらえなかった日々、彼の報われなかった長い年月を思えばそれも幸せに思えた。
紫がゆっくりと頷くと、航輝もまた幸せそうに破顔する。
愛を誓い合った指はゆっくり絡み合い、互いに肩を寄せ合いそれを見つめる。
甘い夜は、そうして静かに更けていった。