彩度beige

1 銀色の

私、水谷衣緒(みずたにいお)(30)の人生は、平凡ながら、2年・・・、いや、3年前までなかなか順調だったと思う。

ちょっと心配症だけど、とても優しい両親の元、5つ下の弟とともに特に不自由のない生活をさせてもらった。

容姿は人並み。

中学・高校時代はバドミントンをやっていたから、運動は、わりと好きだし得意な方だ。

勉強も、中の上か上の下くらいだったので、そこそこできた方だと思う。

大学も、地元では名の知れた公立の大学に入学できた。

友達にも恵まれていたし、何度か素敵な恋もした。

平凡だけど楽しくて、充実した学生時代。



大学を卒業した後は、大手食品会社に就職し、開発部門でがんばった。

その働きを上司が評価してくれて、27歳で主任にならないかと声をかけられた。

ーーー嬉しかった。

仕事は好きで楽しかったし、なによりも、今までのがんばりを大きく評価してもらえたことが、とても嬉しかったし誇らしかった。

そんな中ーーー、このタイミングで、当時付き合っていた5歳年上の秋田敦也(あきたあつや)から、「結婚してほしい」と突然のプロポーズを受けたんだ。


『幸せにする。仕事で寂しくさせる時間も多いと思うけど、衣緒との時間も必ず大切にするから』

『・・・うん・・・!よろしくお願いします』


この時が、幸せの絶頂だったかもしれない。

1年ほど付き合った、大好きな彼からのプロポーズ。

敦也は、IT業界ではそこそこ有名な存在で、自分で会社を経営していた。

業績もよく、金銭的に余裕のある人だったから、私も色々なものを贈ってもらったし、色々な場所に連れて行ってもらった。


『玉の輿だね』

『セレブ婚じゃん!』


周りの人にそう言われ、まさにそうなんだろうと思った。

ごくごく普通の一般家庭で育った私と、IT業界で活躍しているハイスペックな彼。

仕事関係のパーティで出会った時には、敦也と付き合えるなんて考えたこともなかったし、結婚できるだなんて本当に夢にも思っていなかった。

充実した学生時代を終えて、社会人としても順調に、キャリアアップが見えてきた。

そして、「ハイスぺ」と言われる敦也との結婚ーーーー・・・、まさに、全てが順調だったと思う。







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