彩度beige
「・・・・・・、ごめんなさい・・・」

私の答えは決まってた。

一瞬心が動いてもーーー、それは、好きになってくれたこととか、伝えてくれたことへの感謝という名の心の動きで、それ以上になることはない。

緋山くんも、それは予想していたのだろう、「だよな」と言って、ふっと笑った。

「まあ、とりあえずそうくるだろうと思ってたけど。やっぱ、一葉さんが好きなんだよな?」

「・・・・・・」

問われて私は頷いた。

緋山くんは苦笑する。

「強敵だなー。あの人、俺に負けてるとことかひとつもないだろ」

「・・・・・・」

世間的な肩書き、という尺度で見たら、それはそうなのかもしれない。

けれど多分、一葉くんはその肩書きをとても重く思っててーーー・・・、緋山くんの明るさを眩しく感じているようだった。

どの物差しで、自分を見るか相手を見るか。物差しの種類なんて、きっと果て無くあるはずだから。

だからーーー、お互いが持っている羨ましいと感じるものを、比べることはないと思った。

「・・・勝ち負けとかは、ないと思うよ・・・」

「そうかなー。でも、どう考えても一葉さんは生まれながらの勝ち組だって思うけどな。ま、だからって、俺は自分が負け組だと思ってるわけでもないんだけどさ。なんていうか・・・、一葉さんと比べるとどうしても。あの人はーーー、色々と恵まれすぎてる」

「・・・・・・」

それを聞き、緋山くんの言いたいことが、なんとなくわかる気もした。

自分を卑下しているわけではないし、あえて下げたいわけじゃない。

けれど、一葉くんは恵まれすぎている。

同じ世界にいなければ、比べる対象にすらならない相手な気がするけれど、ひとたび比べてしまったら・・・、一葉くんが、自分とは違う「生まれながらの選ばれた人」だと、思ってしまう気持ちは私もわかった。

「今回、一葉さんに花瓶の制作頼まれてさ。企画の趣旨はもちろんだけど・・・、『Vulpecula』に合うものをちゃんと作りたいと思って、ホテルの歴史とかコンセプトとか、色々調べたんだけど。一葉さんって、創業者一族で後継者だろ。創業者に現会長、前社長の名前を見たら、全員、苗字が『一葉』なんだよな。生まれながらに恵まれた家柄で。大学は国立のH大卒って書いてあったし・・・、ルックスよくて頭も良くて優しいって、普通にスペックやばいだろ」

「・・・・・・」

言われて私は改めて、自分との差を自覚する。

緋山くんは知らないけれど、一葉くんはそれに加えて小説家という顔も持っている。

勝ち負けという尺度じゃなくても、明らかな違いというのは当然あって。

改めて、一葉くんは私とは違う世界の人で、そばにいてはいけないような感覚になる。
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