彩度beige
薄手のジャケットでは心細さを感じることが多くなり、コートを着て出かけることが毎日のようになってきた。

今日からついに、「作家と暮らす非日常」のプランで予約をしてくれたお客様を「Vulpecula」で迎えることになる。

私たち企画チームは、朝からその準備に追われていた。

「・・・そうです。そこに額掛けて・・・、あっ!そのオブジェは右側でお願いします」

棚橋さんの指示に従いながら、少しずつ、室内空間をつくってく。

作家さんがつくってくれたものたちは、それぞれがとても個性的だけど、企画の統一感を持っていて。

ひとつひとつがすごく素敵で・・・、けれど、寄り集まると、それぞれの良さがさらに引き立つようだった。

「・・・うん。いいですね・・・」

全ての作業を終えた後、棚橋さんは客室全体をゆっくり眺め、満足そうに頷いた。

その後ろで、私も同じく首を上下に動かした。


(これならきっと、お客様も喜んでくれるはず・・・)


客室の入り口でお客様をお迎えするのは、かわいらしい小鳥のオブジェやお花たち。

中に入って、和洋室の和の部分・・・畳敷きの板の間には、控えめな書の掛け軸と生け花が。ちゃぶ台にはどっしりとした急須と湯呑のお茶セット。お菓子も準備されている。

洋の部分に置かれたベッドを包むのは、こだわったワンポイントがとても素敵なリネン類。浴衣の柄は、古風だけれど伝統的でとても目を惹くデザインだ。

壁には、控えめな大きさの絵画がバランスよく飾られていて。

ところどころに置かれている芳江さんの繊細なガラス作品は、全体の雰囲気をとても上品に仕上げてくれていた。


(その他にも作家さんの作品は色々あるし、部屋に運ばれてくる料理には、緋山くんも含めた作家さんたちが作った器が使われる予定だし・・・)


まさに、「Vulpecula」と作家さんたちのコラボレーションで創り上げられた場所。

お客様をお迎えするのが楽しみだ。


(・・・て、もちろん不安もあるけれど・・・)


それでも、これだけ素敵につくられた空間でお迎えするのだから、楽しみの方が今は大きい。

怖いけど、お客様の反応を早く見たい、という気持ちでいっぱいだった。

その場にいる全員が、出来上がった客室内を感慨深そうにぐるりと見渡す。

それぞれに感想を言い合ってひと息つくと、及河さんが「すみません」と右手を上げた。

「あとはお願いしてもよろしいでしょうか。私と瀧澤さんは、そろそろ行かなければなりませんので・・・」

及河さんと瀧澤さんは、いくつか別の業務も兼任していて忙しい。

私と一葉くん、棚橋さんは、「大丈夫です!」と頷いた。
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