彩度beige
「あとは最終確認だけですし。お忙しい中ありがとうございました」

「すみません。では、よろしくお願いします」

及河さんと瀧澤さんは会釈して、名残惜しそうにその場を去った。

それから、残った3人で作品の配置や清掃状態などの最終確認を行った後、OKとなったところで客室を出て、揃ってフロントへと向かう。

プランを予約してくれたお客様の、到着予定は午後5時だ。

このあとの対応は、それぞれの部署の担当スタッフに任せることになるけれど、せめてお客様をお迎えすることはしたいと思い、到着まで、私たちはフロント奥でしばらく待機。

そして、予約のお客様が来館するとーーー、ドキドキしながらフロントスタッフと一緒に「いらっしゃいませ」と挨拶をした。

ちなみに・・・、一葉くんは「銀髪だから」ということで、できるだけ目立たない場所に立っている。

「こんにちは。予約していた山中ですが」

「山中様。お待ちしておりました」


(いらっしゃった・・・)


落ち着いた、上品な雰囲気の初老のご夫婦だった。

話し方も、身のこなしもとても優雅な印象だ。

山中様は「Vulpecula」の上客らしいので、今回は普段との違いを楽しみに、予約をしてくれたのだろう。

気に入ってくれるといいのだけれどーーー・・・。

「では、お部屋にご案内いたします」

案内係のスタッフが山中様の荷物をカートに乗せて、エレベーターホールへと向かっていった。

あとは、気に入って、楽しんでくれることを祈るのみ・・・。

山中様ご夫婦の、後ろ姿を見守りながらそう願う。



山中様の様子を聞くために、落ち着かない気持ちで事務室に待機していると、案内を終えたスタッフが、「すごく気に入っていらっしゃいました!」と笑顔で報告に来てくれた。

「わ、ほんとですかっ」

「はい。『作品はぜひお手に取ってみてください』とお伝えしたら、早速色々手に取って・・・、『かわいい』『素敵』って、ご夫婦でお話しされていて。すごく楽しそうでした」

「そうですか・・・」


(・・・よかった・・・)


とりあえず、出だしは順調。

この後の料理も喜んでくれると嬉しいし、夜ものんびり、気持ちよく過ごしてくれると嬉しいな。

「これを機に、お気に入りの作家さんができるといいですね」

「ですね・・・」

棚橋さんに声をかけられて、私は大きく頷いた。

今回参加してくれた作家さんたちと、「Vulpecula」のお客様を繋ぐこと。これも、大事な目的のひとつなのだから。

宿泊した時だけではなくて、これからも繋がっていく関係ができるととても嬉しい。
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