彩度beige
そう言うと、一葉くんは私の腕をパッと離した。

そしてすぐ、悩むように言葉を繋ぐ。

「・・・、その、折角だし、この後食事でもどうかと思って・・・」

言いながら、一葉くんの頬に赤みが差した。

ドキ、と、胸の奥が鳴る。

彼のこういう表情は、私の心を大きく揺らす。

だけど・・・、ここで「うん」と言ってしまったら、2人だけの時間を過ごしてしまったら。私はまた、今以上に彼を絶対好きになる。

「・・・、ごめんね、明日は朝から『スピカ』にも行かなきゃいけなくて。今日は早く帰って休みたいんだ」

そう答えを返したけれど、「スピカ」には、必ず行かなきゃいけないわけじゃない。

けれどこう伝える以外、今の私に断る言葉が見つからなかった。

「・・・そっか。今日は朝から大変だったしな・・・。じゃあ・・・、また今度」

「うん・・・、ごめんね・・・・・・」

ズキリと胸の痛みを感じつつ、私は彼に頭を下げて、その場をすぐに後にした。

これでいい・・・、と思うとともに、私は何をしてるんだろうと、自責のような、後悔の気持ちがこみ上げる。


(・・・一葉くん、せっかく誘ってくれたのに・・・)


断った時、一葉くんは私を気遣いながら、肩を落としたことはわかった。

住む世界が違うって、一葉くんから距離を取ってしまうのは、きっと、彼を傷つけることになる。

それは感じているけれど・・・。

今、目の前の彼ではなくて、もっともっとずっと先ーーー、未来の彼を想うなら、私は、そばにいない方がいい。

それもわかっていることで・・・・・・。


(・・・でも・・・)


ーーー何が正解なんだろう。

どちらが正解なんだろう。

まだ私には見えてない、もっと別の、違う答えがあるのかな。

私がするべき選択は。できることは・・・。

考えても、今はやっぱりわからずに、私はただ、痛む胸を抑えることしかできないでいた。








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