彩度beige
ランチを済ませ、食後のドリンクを飲んでしばらくゆっくりしていると、真美から「もうすぐ着くよー」という連絡がきた。

棚橋さんに伝えると、「じゃあそろそろ行きましょうか」ということで、お会計をしてカフェを出る。

「Vulpecula」に戻って従業員用の入り口から中へと入り、鏡の前で自前の黒スーツの襟を整えて、気持ちを切り替え、そのままエントランスホールへと向かっていった。

「さー、どうかな。お客様、みんな見てくれているかなあ・・・」

不安そうな棚橋さんに続き、私も、ドキドキしながら展示スペースへと近づいていく。

と、カメラのような機材を持った男性たちが展示スペースの前にいて、私は妙な違和感がした。


(・・・撮影?今日はあるって聞いていないけど・・・)


「Vulpecula」では、個人で楽しむための撮影は自由なのだけど、商用となる撮影は、基本的にはNGだ。

用途を聞いて許可することもあるようだけど、その場合、数日前までの事前申請が必要で、当日は、撮影が入るという連絡が全従業員に告げられる。

それは、正社員はもちろん、パートさんや、私たちのような立場の者にも必ず連絡があると聞いている。

けれど、今日はそんな連絡は何もなかったはずだけど・・・。

「・・・あの人たち、一般のお客様ではない感じよね。水谷さん、今日撮影あるって聞いていた?」

「いえ。私も、なかったよなって考えていたところなんですけれど・・・」

いつからここにいるのだろうか。

この辺りはちょうどフロントから死角になるので、今の時間帯は従業員の目に触れにくい。

急遽、撮影許可をもらったのかな。

それとも・・・、大き目のカメラを抱えているけど、商用の撮影ではないのだろうか。

そもそも、何を撮ってるんだろう。

私たちの企画の展示?

今日展示を変えるということは、外部にはお知らせをしていないけど・・・、偶然見て、「いいな」と思って撮影をしているのかな。

確認したくて、カメラの先・・・、何を撮っているんだろうと、失礼にならない程度に男性たちに近づいた。

と、その先に見えたのは一人の女性。

展示スペースの前に立っている。


(・・・あれ・・・?)


確実に見たことがある人物だった。

記憶を辿り、私はハッとなって息を飲む。


(・・・美波さんだ・・・)


私の元夫・・・敦也の彼女で、美容系のインフルエンサーである美笠美波さん。

画面越しには何度も目にしたことがあったし、約1年前・・・初めて一葉くんと会った日に、私は、敦也といた彼女と会っている。

最近は、彼女の存在を気にすることもなくなって、画面越しにも見なくなっていたけれど。

久しぶりにこうして目にすると・・・、相変わらず綺麗でかわいくて、嫌でも視線を奪われる。
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