彩度beige
「申し訳ありません・・・っ、この子が急に駆け出していってしまって・・・」

「いえ、大丈夫です。ケガもなくて・・・、よかったです」

「そうですか・・・。ほらっ、コウタも謝って」

「・・・、ごめんなさい・・・」

「ううん、大丈夫だよ」

「すみません・・・」

ご両親は、私や照明を持っていた男性に何度も頭を下げながら、男の子・・・コウタくんを連れて立ち去った。

途中、コウタくんがこちらを振り返り、小さく手を振ってくれたので、私も小さく振り返す。

ひとまず、誰もケガはなく、コウタくんを無事ご両親に引き渡せたことに安堵する。

「・・・はあ・・・、やっと行った。やっぱりあの子が急に飛び出してきたのよね」

ため息をつきながら、美波さんが呟いた。

その視線は、遠ざかっていくコウタくん家族の後ろ姿を見つめている。

「撮影してるの見てわからないかな。だから子供って苦手だわ。照明も壊れちゃったし」

「・・・・・・」

私は、とても腹立たしい気持ちになっていた。

ここまでの言葉や態度、積み重なっていた、美波さんに対する苛立ち。

私はゆっくり立ち上がる。

「・・・いいわ。あとは照明なしで撮影しましょ。・・・ああ、あなたも。早くどいてくれません?」

美波さんは、今度は私に目を向ける。

私はもう、直接確認せずにはいられなかった。

「あの、失礼ですが・・・、こちらでの撮影許可はお取りいただいていますでしょうか」

「は?」

「商用撮影のように見えますが、そうすると、事前に申請をして、許可を取っていただくことになっています」

これは、私が言うべきことじゃない。

それはわかっているけれど、これまでの言動で、美波さんが撮影許可を取っているとは思えなかったし、棚橋さんが未だ戻ってこない今、黙ってここを立ち去ることもできなかった。

「許可って・・・、撮影はどんな用途もご自由にって、ホテルのHPに書いてあったわよ」

「・・・そんなことはないはずですが」

「書いてあったわよ。ちょっと待って・・・、あっ、ほら、ここ!」

そう言うと、美波さんは得意顔で私にスマホの画面を見せた。

そこには確かに、「用途に関わらず撮影等はご自由になさってください」の文字が書いてあるけれど・・・。

「・・・こちらは、『Vulpecula』のHPではないですね・・・」

「・・・え?」

「ホテル名も外観も似てますが・・・、別のホテルです」

「・・・・・・。はあ!?」

確かにホテル名はよく似ているし、外観も、一瞬似ているように見えないこともないけれど・・・、よく見れば、全く違うホテルであった。

美波さんは再度画面に目をやると、やっと違いに気づいたのだろう、「うそっ」と言って焦ったような顔になる。
< 120 / 127 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop