彩度beige
そして、カメラを持った男性にキッ!と鋭い視線を向けた。

「ちょっと岩井くん!ここ、商用撮影NGじゃない!!」

「え?でも、美波さんが大丈夫って・・・」

「私が大丈夫って言ったとしても、普通ダブルチェックをするでしょう?はあー・・・、ほんとに使えない・・・」

「・・・・・・」

岩井くん、と言われた男性は、何か言いたげな顔をしていたけれど、そのまま言葉を飲み込んだ。

と、そこへ、「どしたー?」と言いながら、一人の男性が現れた。


(あっ・・・!)


現れたのは、私の元夫・・・、現在、美波さんの彼氏である秋田敦也だった。

美波さんだけでも苦しい気持ちがあったのにーーー・・・、まさか敦也もいたなんて。私の心臓は、ドクドクと嫌な音を出す。

「なに?どうした美波」

「あのねぇ、このホテル、商用撮影NGなんだって」

「え、そうなの?OKって言ってなかったっけ」

「そうなんだけどー。岩井くんのチェック漏れよね。あーあ、ホテルの人にも見られちゃったし・・・、内緒で使うこともできなくなっちゃった」

そう言うと、美波さんは恨めしそうに私に目を向けた。すると敦也もその視線の先を追い・・・、私の方へと目を向ける。

「・・・っ!うわ、衣緒!?」

ぎょっとなった表情で、敦也は私の名前を口にした。

そこで美波さんも気づいたようで、「衣緒って・・・、え、元奥さん!?」と驚いて、私の顔をまじまじと見る。


(・・・・・・)


約1年前、同じようなやり取りを交わしたことを思い出す。

私は無言で、小さく頭を下げた。

「・・・やだ。前にも確か会いましたよね。でもごめんなさい・・・、忘れちゃって」

「・・・いえ・・・」

敦也と離婚してからもしばらくは、私は、美波さんのことをずっと気にして・・・、どうしても気にせずにはいられなかった。

見なきゃいいってわかっているのに、SNSを覗いてしまったり。

けれど多分、美波さんは私のことを全く気にしていなかった。

きっと、私と敦也がまだ結婚をしていた時も。約1年前、偶然出会ってしまった時も。

それからもずっと・・・、きっと、美波さんにとって、私は気にする程の存在ではなかったのだと思う。

ライバル視さえもされない自分。

悲しさや悔しさを飛び越えて、私は情けない気持ちになった。
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