彩度beige
「・・・金額では、ないです」
「は?」
「・・・もちろん、お金は大事だし、綺麗事を言いたいわけではないけれど・・・、この作品は、私には・・・、私たちには、すごく大事なものだったから。だから・・・、簡単に、いくらで済ませるだとか、そんなに軽く、流さないでほしいです・・・」
声が震えた。上手く言えていないことはわかってる。
それでも、世界にたったひとつ。芳江さんが企画のために作ってくれたものだから。
大切にしたいと思っていたし、沢山の人の目に、触れてほしいと思ってた。
「・・・はあ」
敦也はため息をつき、面倒くさそうに私を見下ろす。
「・・・あー・・・、うん、わかった。なるほど感情論ね。・・・で?けど、だからって元には戻せないだろ?じゃあ、『すいません』って、土下座でもすれば気が済むの?」
「・・・っ、そういうわけでは」
「だろ?いーよいーよ。とにかく金は払うから。あー・・・、じゃあ、100万でいい?これに100万払ったら、これ以上の文句はないよな?」
「・・・っ」
(・・・っ、悔しい・・・)
伝わらない。
言われた金額は大きいけれど、芳江さんの作品を、軽く扱われている感覚がした。
けれど、上手く言い返すことができない自分。
こんなことになってしまって、芳江さんになんて言ったらいいだろう。
後悔と、悲しさと、悔しさと。絶望のような感覚に、身体が沈み込みそうになった時だった。
「・・・お客様」
近づいてくる足音とともに、聞き慣れた、低く落ち着いた声がした。
救われるような感覚に、私は、ゆっくりと後ろを向いた。
(あ・・・っ)
そこには、黒いスーツに身を包んだ、一葉くんの姿があった。
ホテリエとして・・・支配人としての姿はこれまでに何度も見ているけれど、今日の彼は、いつもと違う雰囲気だ。
「何か、ご不便をおかけしていますでしょうか」
言いながら、一葉くんは敦也と美波さんに一歩一歩近づいていく。
その途中、一瞬だけ私と目が合った。
私は、通り過ぎる彼の姿を間近に見ながら、内心、とても驚いていた。
ーーーだって。
こことは違うホテルなら。普通の支配人ならば、驚くことでもなんでもないかもしれないけれど・・・、一葉くんが、こうして表の場所に出て、お客様に直接声をかけるだなんて。
そういうことは、一葉くんはとても苦手で・・・、彼はずっと、避けていることを知っていたから。
「・・・」
一葉くんは視線を動かすと、美波さんの足元にあるガラスの破片に目を留めた。
次に美波さんに視線を向けて、窺うような声で言う。
「お客様、お怪我はございませんでしょうか」
「えっ、あっ、は・・・、はいっ」
美波さんは頬を赤らめて、「大丈夫です」と上目遣いで返事した。
「は?」
「・・・もちろん、お金は大事だし、綺麗事を言いたいわけではないけれど・・・、この作品は、私には・・・、私たちには、すごく大事なものだったから。だから・・・、簡単に、いくらで済ませるだとか、そんなに軽く、流さないでほしいです・・・」
声が震えた。上手く言えていないことはわかってる。
それでも、世界にたったひとつ。芳江さんが企画のために作ってくれたものだから。
大切にしたいと思っていたし、沢山の人の目に、触れてほしいと思ってた。
「・・・はあ」
敦也はため息をつき、面倒くさそうに私を見下ろす。
「・・・あー・・・、うん、わかった。なるほど感情論ね。・・・で?けど、だからって元には戻せないだろ?じゃあ、『すいません』って、土下座でもすれば気が済むの?」
「・・・っ、そういうわけでは」
「だろ?いーよいーよ。とにかく金は払うから。あー・・・、じゃあ、100万でいい?これに100万払ったら、これ以上の文句はないよな?」
「・・・っ」
(・・・っ、悔しい・・・)
伝わらない。
言われた金額は大きいけれど、芳江さんの作品を、軽く扱われている感覚がした。
けれど、上手く言い返すことができない自分。
こんなことになってしまって、芳江さんになんて言ったらいいだろう。
後悔と、悲しさと、悔しさと。絶望のような感覚に、身体が沈み込みそうになった時だった。
「・・・お客様」
近づいてくる足音とともに、聞き慣れた、低く落ち着いた声がした。
救われるような感覚に、私は、ゆっくりと後ろを向いた。
(あ・・・っ)
そこには、黒いスーツに身を包んだ、一葉くんの姿があった。
ホテリエとして・・・支配人としての姿はこれまでに何度も見ているけれど、今日の彼は、いつもと違う雰囲気だ。
「何か、ご不便をおかけしていますでしょうか」
言いながら、一葉くんは敦也と美波さんに一歩一歩近づいていく。
その途中、一瞬だけ私と目が合った。
私は、通り過ぎる彼の姿を間近に見ながら、内心、とても驚いていた。
ーーーだって。
こことは違うホテルなら。普通の支配人ならば、驚くことでもなんでもないかもしれないけれど・・・、一葉くんが、こうして表の場所に出て、お客様に直接声をかけるだなんて。
そういうことは、一葉くんはとても苦手で・・・、彼はずっと、避けていることを知っていたから。
「・・・」
一葉くんは視線を動かすと、美波さんの足元にあるガラスの破片に目を留めた。
次に美波さんに視線を向けて、窺うような声で言う。
「お客様、お怪我はございませんでしょうか」
「えっ、あっ、は・・・、はいっ」
美波さんは頬を赤らめて、「大丈夫です」と上目遣いで返事した。