彩度beige
「でもごめんなさい・・・、これ、横を通っただけで落ちてきて・・・」

「!?」


(え、ええ・・・っ!?)


呆気にとられ、私の目は点になる。

さすがに横を通っただけで落ちるような場所には置いていなかったし、私には、「ごめんなさい」なんて言葉は全く言わなかったのに・・・。

「いきなり落ちてきたからびっくりしちゃって」

「・・・そうですか。申し訳ありません。お怪我がなくてなによりです」

「いえ・・・、いいんです」


(・・・・・・)


美波さんのあまりの変わりように私の思考は停止していた。

一葉くんは、「ですが・・・」と言って話を続ける。

「ちょうど現場を見ていたうちの従業員から、違う報告を受けたのですが・・・。お客様の袖の装飾品に引っかかり、作品が落ちてしまったと」

「えっ!」

「・・・えーっと・・・」と、美波さんは途端にしどろもどろになった。

敦也は、チッと小さく舌打ちをする。

「それって、そう見えただけってやつだろ?いずれにしても、展示の仕方が悪かったんだと思うけど。でもまあ・・・、近くにいたし、そうやってケチつけられるのも嫌だから、弁償するって話してたんだよ。ていうか、突然出てきて君は何?バイトの人かな。上の人呼んできてくれる?」

一葉くんを睨みつつ、敦也は苛立った様子で言い放つ。

先程から、美波さんの一葉くんに対する態度が面白くないようだった。

一葉くんは軽く頭を下げると、背広の内側からサッと名刺を取り出した。

「申し遅れました。支配人の一葉です」

「・・・・・・、は・・・?」

ポカンとしながら敦也は名刺を受け取ると、一葉くんと名刺、交互に視線を動かした。

一瞬、まさかという顔をしたけれど・・・、いやいや、と、否定するように首を振る。

「冗談だろ?こんなチャラついた感じの奴が『Vulpecula』の支配人?・・・んなわけないだろ」

「・・・申し訳ありません。ですが、私が社長兼支配人をしていますので・・・」

「・・・はっ、信じられるかよ。アンタ年いくつ?そんなホストみたいな見た目して・・・、ありえないだろ。俺のこと馬鹿にしてんの?」

苛立ちが増した表情で、敦也は一葉くんに詰め寄るように近づいた。

一葉くんは、冷静な態度で怯まない。

「見た目に関しては・・・、申し訳ありません。ひとまず、場所を変えてお話をさせていただけますか。ここは他のお客様のご迷惑になりますので・・・」

「・・・っ、おい、話逸らすなよ!こっちは馬鹿にしてんのかって聞いてんの。もしくはちゃんと!本物の!上のヤツ呼んで来いって言ってんの!」

「・・・」
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